リーン・ローンチパッド手法は、今では世界中に採用実績が広がっています。今回は、英国のライフサイエンス分野のスタートアップ企業に対して同手法の適用を試みるコンソーシアムの事例になります。(ITpro)

 ステファン・チャンバース氏は過去22年間、最も革新的なライフサイエンス企業で遺伝子発現部門長を務め上げ、その後、自身の企業の共同創業者になりました。現在は、ロンドンにあるインペリアル・カレッジ(国立大学)で、英国の56社の企業パートナーと19の学術研究機関共同による、合成生物学コンソーシアム「SynbiCITE」を運営しています。

 つい最近、ステファンとSynbiCITEは、世界最初の合成生物学向けのリーン・ローンチパッド手法を開始しました。以下は、彼のストーリーです。

「なぜ帰って来たの?」

 24年前、米国で働くために英国を離れ、今また英国に帰ってきた私は、この質問を頻繁に受けます。答えは簡単です。私が英国に帰ってきた理由は、英国を離れたのと同じで、ライフサイエンスのスタートアップ企業が勃興している場所にいるためです。

 今では想像できないことですが、1980年代後期、英国にはライフサイエンスのスタートアップ企業は、ほとんど存在していませんでした。当時、スタートアップ企業と言われていた1~2社がありましたが、実際には政府が支援していた小企業にすぎず、ビジネスプランを遂行しようと試みましたが、結局失敗しました。

 当時英国では、商業分野で働きたいと望んでいたライフサイエンティストには、非常に限られた仕事しかなかったのです。英国での他の産業分野と同様に、医薬品分野は大規模な組織変更と企業合併のまっただ中で、現在の巨大な医薬品企業が創成される渦中にありました。当時はサッチャー政権の時代であり、「バイクに乗って、仕事を探しなさい」と言われ、多くの人たちはそうしました。

 私は英国を離れ、米マサチューセッツ州ケンブリッジ市にある、新しく創業されたスタートアップのバーテックス・ファーマシューティカルズに、創業科学者の1人として参加しました。その当時選択肢はほとんどなく、スタートアップ企業で働きたいのなら、米国に行く以外はありませんでした。幸いにもバーテックスは、近年、最も成功した製薬会社の1つになりました。もしそうならなかったとしても、ケンブリッジとボストンの周辺には豊富なライフサイエンスのエコシステムがあり、他の可能性が十分にありました。あるいは、自分で会社を創業することが可能で、私はバーテックスを退社後、それを実現しました。

英国で何が変わったのでしょうか?

 おそらく最大の変化は、英国政府が合成生物学の重要性を認識したことでした(合成生物学は、生物学に基づいた化学製品、薬品、材料を設計します)。英国政府は合成生物学を、先端材料、農業科学、ビッグデータ、エネルギー貯蔵、再生医療、ロボット工学、人工衛星と共に、国が焦点を当てる8大技術の1つに指定しました。英国政府は合成生物学研究に、1億5000万ポンド(276億円)投資し、研究評議会Innovate UK(技術戦略委員会)を通して教育を行っています。

 合成生物学への国家的な取り組みに焦点を当てるため、英国政府はSynbiCITEを創設し、合成生物学の成果を研究所から商業製品へと転換する責任を、官民共同のこのパートナーシップに与えました。

 そして、これが私を英国に呼び戻したのです。英国を見ると、合成生物学関連の最新の開発を利用しようとする会社に、スタートアップ活動が特に活発でした。

 私は、SynbiCITEのCEOになる機会に飛びつきました。ここでは、「英国で目の覚めるような何かを創造し構築したい」と望む科学者と起業家と一緒に働くという、私の情熱を追求できるのです。