今回の投稿のテーマは、スタンフォード大学工学部の新しいクラスで始まった、米国の国防機関も参画する「国防のためのハッキング」です。悲しい現実ではありますが、技術の大衆化やイノベーション文化の影響範囲が企業にとどまらず、国家間の闘争やテロ組織にも広がっていることを実感できます。(ITpro)

 シリコンバレーのイノベーション文化と考え方を、国防省と諜報機関に適用する「国防のハッキング」についてご紹介します。

 「国防のためのハッキング」(H4D)は、2016年の春から始まる、スタンフォード大学工学部の新しいクラスです。クラスを教えるのは、トム・バイヤース、スティーブ・ブランク、ジョー・フェルター、ピート・ニューエルで、元国防長官のビル・ペリーがアドバイザーを務めます。この学術横断的なクラスに参加すると、米国における国家安全の脅威に対処するための、イノベーション的解決策を矢継ぎ早に提供するための指導を、リーン・イノベーションの権威者たちから直接受けられます。なぜこのクラスが生まれたのでしょうか。

国防機関に共通する課題とは

 米国防省と諜報機関(DOD/IC)に共通するのは何でしょうか。21世紀初頭までに彼らは、軍事技術の優位性を確かなものにしました。国防省と諜報機関は、世界最先端の技術を所有するだけでなく、それらを購入し装備できました。

 彼らの研究開発グループと請負業者たちは、該当分野の最も優秀な技術者を抱えており、最高のシステムをデザインし製造できました。彼らは技術的破壊から防御されていただけでなく、しばしば彼ら自身が破壊者でした。冷戦時代にさかのぼると、米国はシリコンとソフトウエアで先行していたため、ソ連の従来兵器における優位性を破壊しました。

 しかし、この10年間に米国の国防省と諜報機関は、ISIS、アルカイダ、北朝鮮、クリミア、ウクライナ、DF-21、南シナ海域で、自身の破壊に直面しています(訳者注:DF-21 は、中国が開発した核弾頭搭載可能な準中距離弾道ミサイル )。

 今日、これらの潜在的敵国は、ソーシャル・ネットワーク、暗号化、GPS、低価格ドローン、3Dプリンター、より簡易なデザインと製造工程、アジャイルとリーン手法、ユビキタスなインターネット、スマートフォンなどの能力を利用できます。私たちが以前、人々とプロセスとシステムによって、しっかりと保持していた専門知識は、今や誰もが入手できる既製技術になってしまいました。

 歴史的に、優秀な最先端技術を持っていた米国の政府機関は、簡単に入手できる既製の解決策の方が、彼らが開発している解決策に比べてより進歩しているかもしれず、敵国がこれらの既製の技術を利用して、先行策を短期間で作り上げるのではないかということに気づきました。