今回は、ブランク氏が提唱した手法が、全米の共通ツールになったという話題です。リーン・スタートアップ手法を全米の「標準」にするという法令が、米国議会で承認されました。なお、ITpro上の本連載はこの投稿をもって最終回とさせていただきます。ブランク氏のブログは、同氏のサイトにて引き続き連載中です。引き続きご注目ください。(ITpro)

 米国議会の2016年最終日、民主党と共和党は米国のイノベーションと研究開発を強化する法令に合意しました。

 米国議会が「米国のイノベーションと競争性の法令(S.3084)」を承認したことは、私個人としても、とても満足しています。この法令は、私が支援して始めた全米科学財団(NSF)の「イノベーション部隊」(I-Corps)を、米国の科学エコシステムの永続的な位置に定着させました。I-Corpsはリーン・スタートアップ手法を採用しており、科学者たちの発見や発明を、どのようにしたら起業家のように雇用を生み出す事業に転化するかを教えます。米国の最高クラスの科学者たち1000チーム以上が、このプログラムに既に参加しました。

 この法令では、I-Corpsを他の連邦政府機関や教育機関、さらには各州と地域の行政機関にも拡張することを示しています。新規のI-Corps事業機関は、研究開発者がそれぞれのイノベーションをうまく商業化するため、プロトタイプや概念を証明する開発活動を支援します。「連邦資金に基づく研究開発を事業化することは、米国としての目標であり、米国の経済成長を推進し、米国社会に恩恵をもたらす」と、この法令は明確に示しています。米国議会は初めて、政府資金を使った起業家精神、商用化を教える教育と訓練、メンターの役割を認識し、この活動が米国の競争力を改善すると特別な形で表明しました。さらにこの法令は、研究所の新技術を市場に転化するには、起業家とメンターのネットワークが不可欠だと、遂に示したのです。

 この超党派の法律は、コーリー・ガードナー氏(共和党、コロラド州)とゲーリー・ピータース氏(民主党、ミシガン州)の両上院議員が立案しました。この法令を立案した上院商業・科学委員会の議長は、ジョン・チューン上院議員です。NSFの再認可に関する数年の論争の末、下院の科学委員会議長のラマー・スミス氏と同委員会の上席委員のエディー・バーニス・ジョンソン氏が、この法案が下院と上院の両議会をも通るように働きかけたのです。

 私がスタンフォード大学でこの教科を開発しているとき、NSFの私の交渉相手はこの教科を米国全体のプログラムにしたいというビジョンを持っていました。エロール・アークリック氏、ドン・マラード氏、バブー・ダスグプタ氏、そしてこの教科を全米の53大学で教えている講師の皆さんに感謝します。

 科学者が、リーン手法を使って企業を構築することは米国にとって良いことだと皆が考える前に、最初にそれに気づいた1人の下院議員がいます。その人は下院議会のSTEM教育幹部会の共同代表のダン・リピンスキー下院議員で、自分自身でこの教科を体験するため、わざわざ飛行機に乗ってスタンフォード大学にやって来ました。

 当初の2~3年、リピンスキー氏は下院議会で「私たちは科学者を訓練し、企業を創設し、職を増やすために良い方法を見つけた」と言っていましたが、それを言っていたのはたった1人だけでした。

 I-Corpsを米国の標準にした皆さんに感謝します。

2017年1月15日オリジナル版投稿、翻訳:山本雄洋)

スティーブ・ブランク
スティーブ・ブランク  シリコンバレーで8社のハイテク関連のスタートアップ企業に従事し、現在はカリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学などの大学および大学院でアントレプレナーシップを教える。ここ数年は、顧客開発モデルに基づいたブログをほぼ毎週1回のペースで更新、多くの起業家やベンチャーキャピタリストの拠り所になっている。
 著書に、スタートアップ企業を構築するための「The Four Steps to the Epiphany」(邦題「アントレプレナーの教科書新規事業を成功させる4つのステップ」、2009年5月、翔泳社発行)、「Startup Owner's Manual」(邦題「スタートアップ・マニュアル」、2012年11月、翔泳社発行)がある。