今回も、スティーブ・ブランク氏のクラス卒業生とのやりとりに関するエピソードです。企業の急成長時に何をすべきかと悩む卒業生に対して、ブランク氏は、スタートアップ企業の成長過程を3期に分け、それぞれの段階ですべきことを示しました。(ITpro)

 先週、8年間も会っていなかった元生徒のパトリックから電話がありました。今彼は、ある企業のCEO(最高経営責任者)を務めており、彼自身が「贅沢すぎる問題」と認識している課題について相談したいとのことでした。彼は、朝食をしながら卒業以来の職歴(2社のスタートアップ企業でのCEO以外の役職)を説明し、彼が他の2人と共に創業した3番目の会社の話をしたがっていました。

 「私の会社は従業員が70人で、今年の売り上げは4000万ドル(約48億円)に上ります。この四半期に、キャッシュフロー・ブレークイーブン(現金収支分岐点)に達します」。彼は夢の中に住んでいるようです。私は、どうして私たちはここで会っているのだろう、と考えを巡らせました。それから彼は、ここに到達するためには、難しい決断や事業のピボット、親友を解雇しなくてはならなかったことを説明してくれました。彼は難局を乗り越えてきたのです。

 彼は「ここまで来ることができたので、取締役会は私に賭けることにし、事業を拡張することにしました。次の3四半期で、人員を倍増します。問題は、そのプレイブック(作戦計画書)です。何を参考にすれば良いのでしょうか。スタートアップを運営するための本はたくさんあり、上場企業を運営するための助言も数多くありますが、拡張中の企業が直面する問題にどのように対処すべきかに関しては、何もないのです。私は、地図もなく運転しているように感じます。私は何を読み、何をすべきなのでしょう」

 私はパトリックに対して「スタートアップ企業は大企業になるまでに、一連の段階を経なければならないのだ」と説明しました。

探求期

 最初のステップにおいて、スタートアップ企業の目標は、繰り返しが可能で拡張可能なビジネスモデルを探し求めることです。ほとんどの場合、数回の繰り返しとピボットを行なうことで、製品と市場の適合性が見つかります。つまり、企業が製造する商品と、それを購入する顧客の適合です

 顧客が誰かが分かれば、探求期ステップをそろそろ終えるときだと気付くでしょう。

・顧客の購入希望に適合した販売チャネルを見つけ、そのチャネルに必要な費用を理解します
・販売(および/あるいは、多面的な市場において顧客を獲得するための費用)は、創業者の献身的な努力が無くても、販売部隊(あるいは、インターネット販売や口コミ的効果)によって達成できます
・顧客の獲得と実行の方法が理解され、その後18カ月間の顧客獲得費(CAC)と顧客生涯価値(LTV)が見積もりできるようになります

 スタートアップ企業の探求期では、最小限のプロセスと、たくさんの「何があってもやり遂げる」との態度が必要です。この時期の典型的な企業規模は40人以下で、資金はシード資金とシリーズA、あるいはシリーズAのみです。

 ほとんどのスタートアップ企業は、ここで滅亡します。

構築期

 従業員が40人以上になると、企業は下記の項目の達成を可能にする速度で、顧客/ユーザー/支払者を増加させて拡張できるように変革する必要があります。

・キャッシュフローの黒字化を達成し(現金収入が現金支出より大きくなり)、そして/あるいは
・収益が得られるほどのユーザーを獲得する

 残念ながら、従業員を増加すると、従業員が40人以下のときには非常に有効であった、気軽でくだけた「何があってもやり遂げる」文化は、カオス的で非効率になります。この段階の会社は、文化や訓練、製品管理、プロセス、手順の整備が必要です(例えば、人事手引き、販売報酬プラン、経費報告書、ブランディング指導書などです)。

 この構築期は、通常40人ほどの従業員で始まり、少なくとも175人、場合によっては700人になるまで続きます。ベンチャーキャピタル(VC)投資によるスタートアップ企業では、この段階では通常シリーズC、Dあるいはそれより以降の資金調達になります。

成長期

 成長期では、企業は換金性を達成し(株式上場あるいは他の大会社に買収または合併される)、繰り返し可能な企業執行プロセスで成長します。全ての重要業績指標(KPI)プロセスと手順が整備されます。