「人工知能が人類を追い越す特異点(Singularity)は来ない」「深層学習(Deep Learning)が大流行しているが、壁に突き当たる」「人工知能は、目先の技法にとらわれることなく、本来の目的に向かって進め。つまり、人工知能は人間のインテリジェンスを目指せ」──ショッキングで考えさせられる内容の講演だった。

人工知能開発への厳しい意見

出典: VentureClef
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 New York University心理学部教授Gary Marcusは、2015年8月、人工知能学会「SmartData Conference」(上の写真)で、このように講演した。Marcusは心理学者として、頭脳の知覚機能を人工知能に応用する研究を進めている。GoogleやIBMを中心に、IT業界が人工知能開発につき進む中、その手法は正しいのか。厳しい意見が続いた。

 Marcusの発言の根底には、人工知能は我々が考えているより“未熟”である、という考え方がある。その実例として、特異点「Singularity」を挙げた。

 未来学者Ray Kurzweilは、人工知能が2045年に人類の英知を追い越す、と述べている。この根拠として、ムーアの法則に見られる、技術の「幾何級数的進化」を挙げている。Marcusは、これに対し、幾何級数的な進化はハードウエアの部分で、人工知能を司るソフトウエアの進化は緩慢であると主張。その事例としてApple Siriを挙げた。

 1964年に、Siriの大先輩にあたる「Eliza」がMITで開発された。パーソナルアシスタント機能は、ElizaからSiriに至るまでこの50年間、大きな進化はない。SiriはElizaに比べ、対応できる分野が広くなったが、幾何級数的な進化は遂げていない。