ITベンダーはそろそろ、「モノ売り」に先祖返りしたほうがよいのではないか。こう書くと、IT業界でキャリアの長い人から「何を言う!」と強い反発を受けそうだ。IT業界でモノ売りというのは、主にITベンダーを貶める時に使う言葉だからだ。「ユーザー企業の課題を一顧だにせず、製品を売ったらおしまい」とのニュアンスだ。だが、私は本気で「モノ売りに戻るべし」と思っている。

 確かに、コンピュータメーカーや販売会社は長い歳月をかけて、コンピュータなどの製品販売、つまりモノ売りから、ソフトウエア開発などのサービスにビジネスの軸足を移してきた。これを「顧客の課題を解決するソリューションビジネス」と位置付けた。聞こえは良いが、要は御用聞きのSIビジネス。従来からソフトウエア開発が主体だったITベンダーも含め、日本のIT業界はSIビジネス一色に染まった。

 これに対して“ITの母国”である米国には、SIビジネスはほとんど存在しない。ユーザー企業はシステムを自分たちで作るか、ソフトウエア製品などを購入するかのいずれかだからだ。当然、ITベンダーはマーケティングの能力を磨き、モノ売りに徹することになる。そして今、時代が大きく動きパブリッククラウドが全盛の世となった。

 よくSIとパブリッククラウドをサービスとして一括りにする人がいるが、これはとんでもない間違い。パブリッククラウドはサービスの一種とはいえ、どちらというと製品に近い。所有形態が違うだけで、どちらも「これを使え!」という提案。一方、SIは「おっしゃっていただければ、何でもやりますよ」の御用聞きである。

 結局のところ、パブリッククラウドのビジネスも本質的にはモノ売りである。しかも、その“モノ”は、物理的な移動が不要で1カ所に集中できるため、同一の機能を持つ製品に比べコスト面で有利になり、価格競争に持ち込める。だからこそ、モノ売りの先輩格であるコンピュータメーカーやソフトウエア製品ベンダーは脅威を感じ、我も我もとクラウドビジネスに参入したわけだ。