ビジネスの現場を知らないIT部門の技術者の中には、事業部門、特に営業の人たちが「お客様に喜んでいただけると私も嬉しい」とか、「お客様の笑顔が仕事のやりがい」とか言うのを聞くと、嘘くさく思えてしまう人がいる。こんな言葉を聞くと、「こいつら、何をきれいごと言っているんだ」と思わずハスに構えてしまう。ITproの読者にも、きっとそんな人がいるはずだ。

 あえて言うけど、気の毒な人たちだ。もちろん、「お客様の笑顔がやりがい」という気持ちが分からない技術者のことだ。何も分かっていない。というか、「その通り!」と言えるような経験が無いことを、気の毒だと思うわけだ。そんな人はきっと、事業部門の人たちに心から喜んでもらって「ありがとう!」と言われたこともなければ、逆にITベンダーの技術者や営業に本気で感謝したことも無いに違いない。

 人には誰でも「誰かから認められたい」という承認要求がある。だから、事業部門の人が「お客様に喜んでいただけると私も嬉しい」というのは当然なのだ。自分が提供した何らかの価値で客が喜ぶのは、その価値が客の期待以上だったからだ。つまり自分(の仕事)を認めてもらえたわけで、承認要求は完璧に満たされる。単にカネのためだけに働いている人でも、これが嬉しくないわけがない。

 もちろん、最近では「お客様の『ありがとう』が私たちのやりがい」といったキャッチコピーを掲げる企業の中にブラックもいるから、技術者がハスに構える気持ちも分からないことはない。だが、ブラック企業が人集めに使うほど、客に感謝されること、つまり承認要求が満たされることは、働く人が仕事にやりがいを感じるうえで必要な基本中の基本なのだ。

 だから、そんなことが分からない技術者は、相当楽しくない毎日を送っていると推測する。“客”である事業部門から感謝されるどころか、不満ばかりが聞こえてくるのだろう。満たされない承認要求を抱え、「システムをきちんと動かしても褒められず、止まった時だけ怒られる」とぼやいているに違いない。全くもって不幸せな職場である。