案の定というか、最近のSIビジネスの需給関係の好転により、ITベンダーの新規事業への意欲が急速に低下してきた。クラウドの普及などでハードウエア事業に赤信号の灯るメーカーは依然として意欲は高いが、大手SIerは人月商売のうま味を満喫し、「ビジネスモデルの転換」「新規事業の創出」は中期経営計画という“IR資料”の中にのみ存在する空虚なスローガンに戻りつつある。

 こう書くと、多くのSIerの経営者から「まだ十分な実績が出ていないので公表できないが、以前に設置した新規事業推進チームを通じて、クラウド関連などの新サービスの創出に取り組んでいる」といった反論を受けそうである。確かに、大手SIerならどこでもそうした組織やチームがあって、SIという人月商売のビジネスモデルから脱却を図るため、新たなビジネスのネタを探している。

 こうした新規事業推進チームのメンバーは、大概が驚くほど優秀な技術者や営業担当者である。その技術者に会って話を聞いてみると、技術者としてのキャリアは抜群、しかもSIの人月商売やIT業界の多重下請け構造に対する深い問題意識と将来への危機感を持っている。そして何より、新しいビジネスを創りたいという熱意が極めて高い。

 「SIerにも、こんな人がいたんだ」と感動を覚えたことが何度もある。だから、こうした技術者たちが有能な営業担当者とチームを組んで、新規事業の創出などに取り組んでいるのなら、SIerの経営者の反論ももっともなことである。だが往々にして、新規事業推進チームの技術者、そして営業担当者も簡単に“蒸発”してしまうのだ。

 もちろん、人が行方不明になったり、会社を辞めてしまったりするわけではない。単純な話だ。システム開発プロジェクトの現場に技術者たちが投入されてしまうのだ。「なんだ、そんなことか」としらける読者もいるだろう。だが、実はSIerの新規事業推進チームは、今のような景気が良く人が足りないときだけでなく、不景気のときも簡単に人が“蒸発”する。それは人月商売の悲しき性なのだ。