2000年代前半、IT関係者の間で、まことしやかにささやかれた「2007年問題」を憶えているだろうか。2007年前後に企業の情報システムを長く支えてきた団塊の世代の技術者が一斉に退職するので、システム管理面で危機に直面するという珍説である。実際には大した問題にならなかったが、実は2007年問題の亡霊が今もIT部門を地縛している。まもなく恐ろしい事が起こるだろう。

 くだらない書き出しになってしまったが、これから先いよいよ2007年問題が現実化するのだ。なぜなら、大手を中心に多くの企業で基幹系システムのお守りをする技術者の高齢化が急ピッチで進んでいるからだ。この人たちがリタイアしても、跡継ぎはいない。基幹系システムや、それを利用する業務は危機を迎えつつあるわけだが、基幹系のお守りは付加価値ゼロだから、深刻に受け止める経営者はほとんどいない。

 この2007年問題の亡霊の話は後で詳しく書くとして、まず2007年問題がなぜ珍説で終わってしまったのかについて解説する。2007年問題が喧伝された2000年代前半は、ちょうど多くの企業がIT部門のリストラに乗り出した時期だ。日本は“失われた20年”の真っ最中で、企業の業績はさえない。システムの新規開発も一巡したため、間接部門であるIT部門はコスト削減の格好のターゲットになった。

 このままではIT部門からシステムの開発力が失われるだけでなく、保守運用の人員も足らなくなる。多くの企業のIT部門でそんな危機感が高まっていたところに登場したのが、「大量の技術者が退職したらシステムはどうなる」という2007年問題だ。この話にリストラに悩むIT部門は飛び付いた。「これ以上、IT部門の人員を減らすと大変なことになる」と経営者が認識してくれるかもしれないからだ。

 だが、2007年問題は見事な空振り。企業によっては、団塊の世代の退職者を上回る規模でIT部門の人員を削り込んだところもある。そもそも当時のIT部門はまだ人員に余裕があり、団塊の世代などシニア技術者に代わる若手技術者がそれなりにいたし、常駐するITベンダーの技術者もいる。団塊の世代が大量退職しようと、それ以上にリストラが進もうと、基幹系システムのお守りをする技術者は確保できたのだ。