主にIT部門やITベンダーの問題点に焦点を当てている「極言暴論」の趣旨からして、今回の記事タイトルを奇妙に感じる読者がいるかもしれない。だが、安心してほしい。必ず最後には、このコラムの趣旨にかなう話に持っていくつもりだ。では、タイトルにした「日本企業の現場で進行するロボットと人工知能(AI)による支配」の件から説き起こすとしよう。

 まず言っておくが、この話は本当である。というか、ロボットやAIによる支配は既に始まっていると言ってよい。ただ一部、誇張が入っている。誇張の部分は「ロボット」。正確に言えば、今流行りのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)である。「なんだ、そのことか。『現場を支配する』もオーバーな表現だな」とガッカリされそうだが、RPAとAIによる支配は間違いなく事実だぞ。

 まずRPAだが、日本銀行のマイナス金利政策の悪影響などによって追い詰められた金融機関を中心に、今や日本企業の間で大ブームとなっている。なんせメガバンクが「年間1万時間分の作業を減らせる」などと相次いで発表するものだから、業務効率化やコスト削減に迫られている日本企業は色めき立っている。長時間労働や人手不足を解決する強力なツールともなるため、関心を寄せる企業のすそ野も広い。

 一方、AIについては、工場のベテラン技術者や作業員の知見やノウハウを維持したい製造業を中心に、様々なPoC(概念実証)が進んでいる。既に実用化の域に達しているRPAと異なり、業務におけるAIの本格導入はまだまだこれからだ。だが、過去の人員削減、採用抑制などの影響で、ベテランの知見やノウハウを継承すべき中堅クラスが少ない企業にとっては切実な課題のため、遠くない将来に本格導入が始まるはずだ。

 ちなみにRPAとAIの導入に共通する背景を、読者の皆さんはお気付きだろうか。「日本企業で深刻化する人手不足」と言うならその通りだが、認識としては浅い。むしろ、日本企業が強みとしてきた現場力の崩壊が背景にあると捉えるべきだ。RPAとAIの導入は単なる一時逃れにすぎず、抜本的な解決につながらない。その結果、必然的に日本企業の現場はRPAやAIに支配されてしまうのである。