ユーザー企業のIT部門では、他部署の人にはどうしても理解できない不思議な出来事が起こる。その最たるものの一つが「マルチベンダーロックイン」という現象だ。しかも、この現象が怪奇なのは、IT部門が単一のITベンダーによる「ベンダーロックイン」を避けようとした結果、複数のITベンダーにロックインされる事態に至ったことだ。

 実は、マルチベンダーロックインは私の造語だ。大企業のIT部門では複数のシステムを管理しているが、保守運用の実務はITベンダーに外注しているケースが多い。システムごとに異なるITベンダーに発注しているから、いわゆるマルチベンダー体制だ。大概は、それぞれのシステムを開発したITベンダー、あるいは下請けベンダーの技術者がIT部門に常駐する形で、保守運用の実務を担っている。

 この体制は、私がこの「極言暴論」で何度も指摘してきた通り、システムのサイロ化、タコツボ化を生んだ。近年、多くのIT部門で人員削減が進んだこともあり、それぞれのシステムを担当するIT部員は1人なんてケースもざらにある(関連記事:大企業のIT部門も「ひとり情シス」状態、実はそれ以上にひどいぞ)。しかも、今どきのIT部員はプログラムを書いたことがない素人ばかりだから、ITベンダーの技術者に全面的に依存している。

 つまり各システムの保守運用は、担当するITベンダーの技術者に丸投げ状態。保守業務に伴うプログラミング作業はITベンダーの技術者がずっと担ってきたから、もはやシステムの中身、コードはこの技術者でないと分からない。下手をすると、システムを利用している事業部門の業務内容も、その企業の社員であるIT部門の担当者よりも詳しく把握している。つまり、ITベンダーの技術者がいなければ何もできないのだ。

 要は、丸投げ&属人化というIT部門として最低の状態に陥っているわけだ。当然、担当の技術者がいなくなると困るので、ITベンダーの変更は難しい。そして、この状態をベンダーロックインと呼ぶ。複数のシステムを複数のITベンダーに丸投げしているIT部門は当然、マルチ(複数の)ベンダーにそれぞれロックインされている。だからマルチベンダーロックインというわけだ。