「ひとり情シス」という言葉は、技術者、特にユーザー企業のIT部門の人には過酷な仕事を想起させる。言うまでもなく「ひとり情報システム部門」を略した言葉で、たった1人で企業の情報システムの保守運用などを担う技術者を意味する。少し前に社会問題になった外食産業の「ワンオペ」と同じような過酷な労働のイメージがあって、多くの技術者に忌み嫌われている。

 もちろん、さすがにひとり情シスは、外食産業のワンオペほどは過酷ではない。ワンオペの場合、深夜など働き手が少ない時間帯に1人で仕切らせ、客の人数によっては対応不能に陥るほど過重労働にもかかわらず、給与はそれに見合わないから問題になった。一方、ひとり情シスは、給与が仕事に見合っているかは議論の余地アリだが、ワンオペのようなブラック職場とは言いがたい。

 中堅中小では複数のIT担当者を置けない、もしくは置かない企業が結構あり、実はひとり情シスを担う技術者が結構いる。そんな人たちからは「仕事が大変」「評価されない」との声が上がるが、「ブラック職場だ」という話はほとんど聞こえてこない。他にシステムを担える人がいないから、ひとり情シスをやっているわけで、ITに無理解な経営者であっても極端なムチャは言わないのだろう。

 それに、「1人のほうが何でも自分で仕切れて好都合」との声もある。仮想化技術やクラウドの活用などで上手に効率化できれば、仕事がかえって楽になるという話もある。このあたりは、私がとやかく言うよりも、実際に製造業でひとり情シスを担う現役技術者に、ITproで連載してもらっているので、そちらを参照していただきたい(関連記事:10人のIT部門が消滅~ひとり情シス顛末記)。

 ただ、ひとり情シスには、誰もが指摘するリスクがある。読者も当然気づいていると思うが、もし技術者が病に倒れ長期の休職を強いられたり、転職したりしたら、残されたシステムの保守運用などはどうすればよいのか、ということだ。大企業のIT部門の中には、「ひとり情シスはリスクが高く、ナンセンスの極み」と嘲笑する人もいる。だが笑う人は、実は自分たちもひとり情シス状態に陥っていることに気づいていないのだ。