私はこの「極言暴論」で、SIerの御用聞き体質を折に触れて批判している。だが実は、その度に申し訳ない気持ちになっている。もちろんSIerに対してではない。本物の御用聞きの皆さんに対してだ。どんな業種であっても、顧客の要望に完璧に応えられるプロは本当にすごい。私も旅先などで何度か感嘆したことがある。だから「御用聞き」という言葉をネガティブな文脈で使うことに、申し訳なさを感じるわけだ。

 だが、そうは言っても、御用聞きのSIerにはガツンと言わなければならぬ。そもそもSIerは本当に御用聞きなのか、単なる「ガキの使い」じゃないのかという話もあるが、今回の記事の趣旨と外れるので、そこは深掘りしない。とにかくSIerが御用聞きをやっているようではダメなのだ。他の業種では御用聞きが尊敬すべきプロの仕事であっても、ITの仕事においては最低最悪。全てのムダや不幸の起点はここにある。

 「おっしゃっていただければ何でも作ります」と営業し、人海戦術でムダの塊のようなシステムを作る。「それって、パッケージ製品をそのまま使えばよくない?」「こんなアドオン、要らないよね」と内心では思っても、「お客様の言う通り」だ。中には「現行通り」という酷い要求もあるが、「かしこまりました」となる。その結果、客は非効率な業務を温存するシステムに大金を支払う羽目になる。

 SIerの御用聞き体質によって、日本のIT業界では、世界に類を見ないほどの多重下請け構造による人月商売がはびこった。SIerが客の御用を聞けば聞くほど、工数が膨らみ人月商売は栄える。中堅中小のITベンダーも「技術者をこれだけ出してくれ」というSIerの御用を聞いていれば楽に食える。その結果、日本のIT業界では、自らリスクを取ってパッケージ製品やクラウドサービスで勝負する企業はほとんど育たなかった。

 ただ、この御用聞き体質を問題視する記事を書くと、以前はSIerの技術者らからよく怒られた。「我々は『おっしゃっていただければ何でも作ります』などという、いい加減な仕事をしていないぞ。きちんとソリューションを提案するよう心がけている」といった具合だ。「では、本当に提案できているの?」と聞くと、途端にモゴモゴとなる。今回の極言暴論では、このモゴモゴの謎を明らかにしてみたい。