ERP(統合基幹業務システム)やミドルウエアの統合化が進んだ今ではあまり見かけなくなったが、以前は外資系ソフトウエアベンダーがよく「製品アーキテクチャー」の発表なるものをよく行っていた。そして、それを見聞きしたユーザー企業のIT部門の人は「まだ実際の製品も無いのによく言うよ」と失笑したものだった。

 ある意味、失笑するのは当然。この手の発表は、最新の技術トレンドを素早く取り込んだ“フリ”をして自社の先進性をアピールする狙いや、ライバル製品の革新的な機能に追随できるのはまだ先だけど、とりあえず「それ以上の機能を提供する」と言っておこうという目的のために、製品群全体の将来の見取り図としてアーキテクチャーを公開するケースが多かったからだ。

 だが、失笑してばかりいたのは大きな間違いだった。もちろん、存在しないものを在るかのように見せかける厚かましいマーケティングに関しては笑っていてよいのだが、「実際の製品も無いのによく言うよ」というのは全くの誤り。アーキテクチャーは難しく言えばきりがないが、要はどういったものをどういう形で実現するかというデザイン。こうした全体のデザインが実際のブツより先立つのは当然だ。

 どうも日本人の技術者は、デザインしたら即座にブツを作らないと気が済まないらしい。とりあえず全体のアーキテクチャーをデザインしておいて、必要なところから順次作って動かすということが苦手だ。その結果、外資系ベンダーのアーキテクチャーを笑っていたユーザー企業のIT部門は部分最適のシステムを量産するか、壮大な全体最適のシステムを作ろうとして破綻するか。そんな失敗を繰り返してきた。

 そして今、その悪弊が企業の将来の競争力を左右するほどの大問題となりつつある。断っておくが、以前流行ったEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)という、100年以上を費やすサグラダ・ファミリア級のレガシーな話をしようとわけではない。IT部門のこの悪弊が、事業部門のビジネスの足かせとなり“シャドーIT”のまん延を招く愚かさを指摘したいのだ。