全てのビジネスが“デジタル化”しつつある今、IT活用の優劣が企業の命運を決めるとの認識は、日本企業の間でも急速に広がっている。今までITに無関心だったことが嘘のように、経営者はITを活用したイノベーションの必要性を声高に語るようになった。事業部門もその要請に応えソーシャルメディアを使ったマーケティングやIoT(Internet of Things)での新規事業などに挑戦し始めた。

 その結果、どんどん厳しい立場に追い込まれているのが企業のIT部門だ。間接業務の支援システムにすぎない基幹系システムの運用にしがみつき、経営や事業部門のニーズに対応できないIT部門は、多くの企業の中で“役に立たない部門”の烙印を押されようとしている。事業部門の中には、そんなIT部門を見限って自らの予算と権限でIT活用に乗り出すところも増えてきた。

 事業部門のこうした動きを“シャドーIT”と呼ぶ。だが、こうした商売し儲けるためのITよりも、むしろ間接業務支援のためのITのほうがシャドーITではないのか。実際、ある外資系ITベンダーの営業担当者によると、ある大手企業では事業部門のIT予算のほうがIT部門の予算よりも10倍以上も多かったとのことで、その人もさすがに驚いたそうだ。

 まさに、ビジネスのデジタル化を推進するために、IT予算が全社に拡散しつつあるのが今の状況だ。各事業部門が独自のIT予算、もしくは隠れIT予算を持ち、自らのビジネスのために独自のシステムを開発したり、外部のクラウドサービスを活用したりする。今、企業の至る所で部分最適のIT活用が進んでいる。IT部門のことは脇に置くとしても、はたしてこれで良いのだろうか。

 その意味で、ネット企業の今の状況が“先行事例”として参考になる。言うまでもなく、ネット企業は当初から全てのビジネスがデジタル化している。今や日本でも、既存の大企業や中堅企業並みの事業規模を持つネット企業も数多く生まれている。それゆえに、既存の企業からすると優れた事例の宝庫だろうと見えるが、実際は反面教師の宝庫である。