「情報サービス産業の未来は大きく輝いており、これからの若者にふさわしい産業である。私たちには、情報サービス産業をより魅力ある産業に変革する使命がある」。情報サービス産業協会が2015年10月7日に発表した「JISA Spirit」の一節だ。これを読んで、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしなくても済むSIerの経営者がいたら、ぜひ手を挙げていただきたい。

 NTTデータなどJISA会員企業のSIerの経営者だけにお聞きしているのではない。富士通、NEC、日立製作所といった日本のIT業界を主導し、SIを主な生業とするITベンダー(以下、SIerに統一)の経営者にもお尋ねしている。なぜ、SIerを頂点とする受託ソフトウエア開発、保守運用の業界が「若者にふさわしい産業」に脱皮できずに、ここまで来たのか、そろそろ真剣に反省すべきだと思う。

 私が問題にしているのは言うまでもなく、人月商売に基づく多重下請け構造の“闇”だ。確かにSIerや二次請けの受託ソフトウエア開発会社などは、働きやすい職場づくりを目指し様々な施策を打ってきたのは承知している。ただ、その対象はあくまでも自社の社員にとどまる。多重下請け構造を使って“調達”した技術者は蚊帳の外だ。そうした技術者がどうなろうと、人を大事にするSIerも見て見ぬふりを決め込んでいた。

 SIerから言わせれば「そうは言ってもねぇ。大人の事情を分かってよ」といったところだろう。米国のITベンダーのようにパッケージソフトウエアやクラウドのビジネスモデルを確立できなかった以上、人海戦術によるSIビジネスに傾注せざるを得ない。SIの需要は景気に合わせて大きく変動するから、自社の社員の雇用を守るためには外部の“安全弁”に依存せざるを得ないわけだ。

 だが、いかに自社を良い会社にしようが、偽装請負まがい行為が横行し、需要がしぼむと容赦なく人を切り捨てるブラック的な業界構造を放置していては、日本のIT業界は絶対に「魅力ある産業」にならない。その結果、日本全体のIT力は米国などにますます水をあけられる。これは国家的損失である。IT業界のリーダー的立場にあるSIer、特に経営者は抜本的な変革に乗り出すべきである。