とにかく「セキュリティ!」「セキュリティ!」とやかましい。企業のIT部門の長、ITベンダーの経営者、それにIT政策を担当する官僚らは「セキュリティが最重要課題」と大騒ぎしている。何の話かと言うと、企業のデジタルビジネスの取り組みや、より大きな話である「第4次産業革命」などデジタル化の件で、「セキュリティ!」「セキュリティ!」と連呼するのだ。もう騒ぎすぎ。うるさくて仕方がない。

 「セキュリティの話だから騒いで当たり前だろ」と思う読者も多いだろうが、それは少し違う。確かにセキュリティは重要だが、一番重要なことはITを使って新しいビジネスを創り出したり、既存のビジネスモデルを刷新したりすることだ。だが、残念なことに「セキュリティ!」「セキュリティ!」と騒ぐ人たちは、デジタルビジネスなど“新しい事”そのものについてはよく分からない。

 彼らがそうした“新しい事”で唯一に理解できるのは、セキュリティに対する脅威のみである。何かまともな事が言えるのは、それしかない。だから、張り切ってその重要性を説く。さらに言えば、彼らのような責任ある立場の人間にとっては、サイバー攻撃や個人情報漏洩は、自分自身の責任を厳しく問われる悪夢のような事態だ。だから、なおさら過剰に騒ぐわけだ。

 ためしに大手ITベンダーの経営者やIT政策担当の官僚の講演なんかを聞いてみるとよい。「デジタル革命」などの大仰なタイトルの付いた講演がよいだろう。誰の話も大概同じだが、前半はIoT(インターネット・オブ・シングズ)やAI(人工知能)などを使ったイノベーションの重要性など、具体性の無い“ふわふわ”した話が語られる。一方、「革命を支えるセキュリティ」といった話になると俄然詳しく、話に熱が入る。

 もちろん、デジタル革命で具体的に何をやるのか、どのようなデジタルビジネスに新たな可能性があるのかについて、彼らに知見が無くて当たり前である。そうした新しい事そのものについてはベンチャー企業、そして既存企業にもいるイノベーターが担うことである。だが、責任ある立場の人間が“得意分野”のセキュリティをがなり立てることで、イノベーターたちの足を思いっきり引っ張っている。そのことをもっと自覚すべきなのだ。