どういうわけか、ユーザー企業のIT部門は、自社の事業部門や経営陣にITベンダーが営業に行くことを非常に嫌う。ITベンダーがこっそり事業部門を訪ねたことが発覚しようものなら、激怒モード。温厚なはずのシステム部長が「ふざけるな」と息巻いたりする。コンサルタントらが社長に会うことも、実は不愉快だったりする。だからITベンダーは、IT部門以外を訪問する時は細心の注意を払う。

 冒頭で「どういうわけか」と書いたが、IT部門が不愉快になる理由はだいたい分かる。一言で言えば「ITの素人(経営陣や事業部門)にヘンな事を吹き込むな」といったところか。いつもIT部門は「社長はITを分からない」などとぼやいているのだから、本来ならITベンダーが最新のITについて経営陣や事業部門に説明してくれるのは良い事のはず。でも、嫌なのだ。

 なぜなら、IT素人の社長がヘンな事を吹き込まれ、「ビッグデータでこんなことができるんじゃないか」と言い出されると、「無理です。そんな口車に乗ってはいけません」との御説明が大変になる。もしIT部門が事前に「ビッグデータなどバズワードです」と社長に話していたら、もっと大変。「ベンダーの話は違ったぞ。君らはITの専門家なのに、最新技術に無関心すぎる」とお叱りを受けるかもしれない。

 一方、事業部門にITベンダーが行くのを怒るのは、いわゆるシャドーITが蔓延して後で厄介なことになるのを怖れるからだ。これからはデジタルビジネスの時代。事業部門としてはITを活用してライバルに勝ち、売り上げを伸ばしたい。だから、「いける」と思うとITベンダーの提案に勝手に乗る。しかし後で、IT部門がそんなシステムの面倒を見なければいけなくなる可能性が大。「冗談じゃない」というわけだ。

 そこでITベンダーに忠告する。大事なお客さんだったIT部門は、かくのごとくIT部門外しを嫌う。だが、ビビッてはいけない。今やIT部門の多くは、最新技術や自社のビジネス上の課題すら分からない“不機嫌な門番”にすぎない。経営陣や事業部門とコンタクトを取らないと、ITベンダーは商機を失う。それどころか、ユーザー企業のためにもならない。そろそろ腹をくくるべきである。