システム開発などの商談において、客のIT部門の担当者がITベンダーの技術者の渾身の提案を平気でパクることは、この「極言暴論」で何度か問題にしたテーマだ。「御社に発注するから」などと言葉巧みに信用させてITベンダーから提案書を受け取り、それをコピペしてRFP(提案依頼書)を作り、他のITベンダーに発注するという、客の所業の中で最も人でなしの行為だ。

 この話は、極言暴論の中でも最もよく読まれるネタであり、読者からのコメントも最も多い。しかも、そのコメントのほとんどは「私も以前、そんな酷い目に遭った」というもの。「自分を含め私の周りで、そんな酷い事をやったという事実は無い」といった真っ当なIT部門の人のコメントも散見したが、客の悪行を告発するコメントの山に埋もれてしまうほどだった。

 客にこれをやられるとITベンダー、そして担当した技術者は辛い。単に、商談を取れると期待した案件で失注するだけでなく、そもそも発注する意思の無い客のために、時間とコストをかけて提案書を作っていたわけだ。要件定義も満足にできない客が相手だと、付加価値の高い提案書を作るためには、相当の努力が必要だ。その努力は全て徒労になり、提案書は客とライバルのITベンダーのために使われる。

 普段は真面目なビジネスパーソンのはずであり、他人に迷惑をかけずに生きているだろうIT部門の担当者が、なぜこんな所業に手を染めるのか。その辺りの事情については別の記事で詳しく書いたので(関連記事:ベンダーの提案書をコピペしたRFPの恥知らず)、ここでは簡単に触れるにとどめておく。要は、IT部門の素人集団化が行き着くところまで行った結果、パクらないと発注もできなくなったのである。

 今や多くのユーザー企業でIT部門の劣化が進み、IT部員はITの専門家ではなく、ITの担当者という素人にすぎなくなっている。おまけに事業部門などと没交渉になっているから、業務が分からず満足な要件定義もできない。加えて、ITコストの削減を厳命されているから、コンペや相見積もりは不可欠。そのためには精度の高いRFPが必須で、担当者はITベンダーの提案書をパクるしか手立てが無いわけだ。