「老害」という言葉がある。とても嫌な言葉だ。私もそう言われかねない年齢に差し掛かっているため、とても切ない言葉でもある。そういう心理的ブレーキが働いていたのか、ITベンダーやユーザー企業のIT部門の問題点を斬りまくってきた「極言暴論」でも老害問題に焦点を当てた記事は皆無だ。だが、ITベンダーにもIT部門にも老害問題はある。仕方が無い。この隠れた問題をズバッと斬ってみよう。

 老害とは文字通り、老いて何かを害すること、あるいはその人のことだ。一番分かりやすい例は、経営トップを退いた後に、「財界活動のために必要」などの明確な理由が無いにもかかわらず、「相談役」「顧問」といった肩書きで企業にとどまる人たちだ。何もしないならともかく、後輩たちの経営に干渉するとなると問題だ。この件は最近、経済産業省や東京証券取引所などが問題視しており、まさに典型的な老害である。

 広辞苑(第六版)の定義によると、「高齢者」「硬直した考え方」「指導的立場」が老害の前提だ。そうすると、考え方が硬直化しているかどうかは分からないが、指導的立場にない50代の私が切ない思いをする理由はない。だが、世間では老害の意味がどんどん拡張されており、私が若者に「仕事というものはなぁ」などと言おうものなら、「そんな考え方を押し付けるのは老害ですよ」と反撃されてしまう。やはり切ない。

 気を取り直して、本題のITベンダーやIT部門における老害問題だが、それは相談役らによる院政のような分かりやすいものではない。なぜなら、老害の主がITベンダーなら経営トップをはじめとする経営幹部、IT部門ならCIO(最高情報責任者)やシステム部長クラスだからだ。実は、現役幹部層の多くが老害になってしまっているという事実が、ITベンダーやIT部門において、この問題を深刻にしている。

 「いったい何の話をしているのか、さっぱり分からない」という読者も多いと思うが、ITベンダーやIT部門の人なら、こうした幹部と酒を飲みに行った時を思い出してもらえばよい。おそらく彼らから、若い頃の“武勇伝”を1つや2つ聞かされたことだろう。「不眠不休で納期に間に合わせ、完成した時にはお客さん(もしくはパートナーさん)と涙を流して喜びを分かち合ったものだ」といった具合。そろそろ話が見えてきただろうか。