「日本の大手金融機関のIT部門は毎年スカイツリーを建てている」という話がある。何のことかと言うと、メガバンクや大手保険会社のシステム保守費用の膨大さを端的に表すジョークである。こうした金融機関では、システム保守費用が年間で500億円とか600億円に達する。東京スカイツリーの建設費が400億円と言われているので、それを上回るカネをシステムの維持につぎ込んでいるのだ。

 この話を製造業のIT部門の人に言ったら、「いやぁ、凄い。大手金融機関が何社あるのか分かりませんが、合計すると本当に凄い額ですね」と誤解されてしまった。読者の皆さんも誤解するといけないので、改めて言うが、500億円とか600億円とかいうシステム保守費用は1社あたりの金額だ。つまり、片手に余る社数の大手金融機関のIT部門が毎年せっせとスカイツリーを建てているわけだ。

 息を飲むほどの、もの凄い金額である。単に「大手金融機関のシステム保守費用は年間600億円」と聞くだけでも門外漢には驚きだが、スカイツリーのような身近なものの金額と比較してみると、どれぐらい凄まじい額かがリアリティーをもって感じられる。製造業のIT部門の人が「大手金融機関の合計額」と誤解したのも無理からぬことである。

 では、この金額は適正か。いや、適正じゃないでしょ。欧米の金融機関に比べて1ケタ高いと言われているぐらいだ。「プログラムがスパゲティー化し、わずかな変更であっても影響の及ぶ範囲を容易には特定できず、1行直すだけでも2カ月かかる場合もある」などの理由で、毎年スカイツリーを立て続けなければならない状態に陥っているのだ(関連記事:いつまで続けるのか、捨てられないプログラムとの不適切な関係)。

 実は、こうした状況は何も金融機関に限った話ではない。その金額の大きさに勘違いするほど驚いた製造業のIT部門の人のところでも、状況は似たようなものだ。もちろん、金額ははるかに少ないとはいえ、既存のシステムのお守りをするために、多くのカネ、そして人的リソースを費やす。「毎年スカイツリーを建てる」は、日本企業のシステムやIT部門の状況を象徴しているにすぎない。