情報処理推進機構(IPA)の『IT人材白書2014』によると、日本のIT業界の技術者(IT人材)は81万9000人に達するそうだ。そのうち「受託開発ソフトウェア業」に従事する技術者の数は56万5000人。実に7割近くの技術者が単品モノのソフト開発を手掛け、その大部分が人月商売の多重下請け構造の中で仕事をしていることになる。

 私は「記者の眼」で書いた記事で、SIerを頂点とするIT業界の構造的問題を数多く指摘した(関連記事: IT業界の人月商売、多重下請けがもたらす45の害毒)。この45の問題点については順次、「極言暴論」で詳細に検証していくつもりだが、今回は9番目に指摘した「膨大な数の技術者を付加価値が低い領域に固定することになる」について書きたい。

 なぜこの話から書くかと言うと、多くの技術者がSIや受託ソフト開発という付加価値の低い世界に固定されていることは、IT業界だけでなく日本の産業全体にとっても大きな損失だからだ。日本の労働力人口が減少する一方で、様々な産業でIT人材に対するニーズは高まる中、最も付加価値の低い人月商売が大量の人材をロックインしてしまっているのである。

 しかも今なお、この人月商売の多重下請け構造は多くの有為な若者を吸引し続けている。そして、最新技術とは無縁で細分化された付加価値の低い仕事を続けている技術者は、最先端の技術や急速に膨らみつつある新たなITニーズの世界に飛び出すきっかけを失う。まさに人月商売の多重下請け構造は技術者の“アリ地獄”と言ってよい。

 もちろんSI案件の中には重要なシステム、難易度が高いシステムもそれなりに存在する。ただし、そうしたシステムに真の意味でチャレンジできる技術者は限られるし、重要で難易度が高いからといって付加価値の高いシステムであるとも限らない。人月商売の多重下請け構造の中にいるITベンダーや技術者は、そんな仕事を続けることのリスクにそろそろ気付いたほうがよい。