日本にはIT産業が無い。IT利用産業があるだけだ――。ITの領域で新たなテクノロジーを生み出すことで世界に新たな価値を提供するのがIT産業。大手をはじめ日本のITベンダーのほとんどは、新たなテクノロジーを何も生み出していないのだから、日本にはIT産業と呼び得るものは存在しない。

 これは、ある大手ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)の経営者の発言だが、なかなか素晴らしい暴論である。「この視点は気付かなかったなぁ」と感心して、この人の名調子を聞いていたのだが、ふと思った。ひょっとしたら日本にはIT産業だけでなく、まともなIT利用産業も存在しないのではないだろうか、と。

 まず、「日本にはIT産業が無い」の話だが、日本の今のIT業界の状況ではインフォメーションテクノロジーの産業とは言い難い。「テクノロジー」を冠する以上、その産業の主要プレーヤーは研究開発型の企業でなければならない。というか、別に「テクノロジー」の看板が付いていなくても、他の多くの産業で研究開発型の企業が業界を引っ張る。そのことはトヨタ自動車、東レ、花王などの名前を出すとすぐにピンとくるだろう。

 以前なら日本のITベンダーも、特にコンピュータメーカーは研究開発型に近かった。半導体からコンピュータ、ネットワーク、そしてOSなどの基盤ソフトウエアなどを自ら研究開発し、独自の製品として販売していた。ところが最近では、独自の製品を次々とギブアップし、米国ベンダーの製品を担ぐ存在に成り下がった。研究開発の成果として残っているのは、スパコンなどごくわずかである。

 つまり、日本のIT産業は年を追うごとに衰退し、今や絶滅状態に立ち至った。もちろん、「日本にはIT産業が無い」と言った冒頭のISPの経営者をはじめ、大手ITベンダーの経営者は研究開発を諦めていないし、オープンソース分野では世界的な貢献もあるから、そう言うのは忍びない。だが、IT産業が米国に一極集中してしまった現状では、いかんともし難いことである。