もし日立製作所の経営トップが「我々は世界最大のソフトウエアベンダーになる」と言い出したなら、どうなるだろうか。日立の社内は蜂の巣を突いたような大騒ぎになり、世間からは「できるわけがないじゃないか」と冷笑されるのがオチだ。だが、米国では日立と同業の重電メーカーがそう宣言し、ITベンチャーなどからスーパー技術者を片っ端から引っこ抜いている。

 その重電メーカーとはもちろん、今やIoT(Internet of Things)のエバンジェリストになった感があるゼネラル・エレクトリック(GE)だ。そのGEの取り組みが、IoTの代名詞の一つになった「インダストリアル・インターネット」。航空機エンジンや鉄道車両、電力インフラなど自社製品に取り付けたセンサーでデータを収集、ビッグデータとして分析することで高度な保守サービスなどを提供しようというものだ。

 実は、このインダストリアル・インターネットの話を最初に聞いた時、私は「何をいまさら」と思いっきり冷笑した。日本にはコマツの「KOMTRAX」という世界に冠たるIoTの先行事例がある。「社会イノベーション事業」としてインダストリアル・インターネットと同様の試みを追求する日立と違い、GEは強力なIT部隊を持たない。「GEは日本企業の敵ではない」。そんなふうに冷ややかに見ていたのだ。

 だが少し前、来日したGEの経営幹部によるプレゼンテーションを聞いて衝撃を受けた。「今までのヒトのインターネットの時代に起こったことが、これからはモノのインターネットで起きる。消費者向けのサービスを開発している技術者に『そんな退屈な仕事ではなく、もっとワクワクする仕事をやらないか』と声を掛けている」。実際、GEはシリコンバレーを拠点に優秀な頭脳を集めまくっているのだ。

 つまり、GEはインダストリアル・インターネットのビジョンの下、あっと言う間に強力なソフトウエア部隊を創り上げてしまったのだ。大手コンピュータメーカーの一角である日立のIT部隊がどんなに強力でも、GEはすぐに追い抜くだろう。GEは重電ビジネスを革新するだけでなく、IoT分野やビッグデータ分野でソフトウエアの巨人になることを目論む。IT産業に対しても宣戦布告しているわけだ。