「木村さん、こんなことって変だと思わない?」。某大企業のIT部門の人に会った時、その人はこんなふうにボヤキ始めた。何の話かと言うとCIO(最高情報責任者)の“格”のことだ。CIOは企業の役員であるのは確かだが、その企業も含め多くの企業でヒラの執行役員に留め置かれている。「ITの重要性が高まっているのに、なぜCIOは“偉く”ならないんでしょうね」。ボヤキはしばらく続いた。

 確かに、この人の言う通りである。CIOを含め各役員が担う経営機能の重要性は、時代によって異なる。それほど重要でなければヒラの執行役員で十分だが、重要性が高まれば常務や専務、場合によっては副社長が担うべきだ。デジタルの時代になった今、企業にとってのITの重要性は昔と比べ飛躍的に高まっているのだから、本来ならCIOは常務や専務、そして副社長に昇任すべきとなる。

 だが多くの企業で、CIOは執行役員に固定されている。どんなITの重要性が高まっても常務にも専務になれない。そんなわけでIT部門の人は「おかしいではないか」と悲憤するわけだ。もちろんIT部員にとっては、がんばって結果を出して評価されたところで、執行役員までにしかなれないという将来のキャリアパスへの不満もある。どんなに優秀でもヒラの執行役員でキャリア・イズ・オーバーである。

 ただし、この話は少し複雑だ。ここで言うCIOとは「執行役員システム部長」のことだ。つまりIT部門の親玉が役員待遇を受けた存在。そして大企業なら執行役員システム部長の上席の“もう一人のCIO”がいるケースが多い。例えば常務取締役といったクラスの人で、将来の経営トップを狙えるような実力者だったりする。営業担当や財務担当、経営企画担当が主務で、IT担当を兼務しているのだ。

 大変切ないことだが、実力者である“上席のCIO”には、IT部員が昇進してもたどり着くことはない。さらに切ないことだが、実は上席のCIOの格も固定されている。例えば実力者の常務が専務や副社長に昇任すると、あっさりIT担当を離れ、別の常務がIT担当を兼務するようになる。つまりCIOが1人だろうが2人いようが、CIOの格はどんなにITの重要性が増しても低いままである。