ユーザー企業がITベンダー化する――。これは私が5年ほど前から言い続けていることだが、言い続けるのは本当に難しいと思う。言い始めたころは「木村は何を言いたいのか、全く分からない」との反応。詳しく説明すると「あり得ないだろ」と嘲笑された。で、今は同じ話をすると「今ごろ、そんな当たり前の話を言っているのか」とまた嘲笑されたりする。もうヤレヤレである。

 「極言暴論」の読者の皆さんの間でも、ユーザー企業のITベンダー化はもう当たり前の認識かと思うが、いまだピンと来ていない人のために、この記事の前振りとして少し説明しておこう。話は簡単だ。ユーザー企業がビジネスのデジタル化、いわゆるデジタルビジネスに取り組むようになれば、当たり前の話だが、その企業が提供する新たな価値はITサービスとして提供される。

 さらに様々な機器がデジタル化されることで、今までITとの無縁だった製造業が“コンピュータメーカー”となりつつある。家電製品、カメラ、時計、自動車、建設機械などは既にIT端末。PCどころかスマートフォンがIT端末の王様だった時代もそろそろ過ぎ去りつつある。ITベンダーと化した製造業が様々なIT端末を造り、その端末向けにITベンダーと化した金融業や小売業などがITサービスを提供する。そんな時代が始まろうとしている。

 毎度引き合いに出して恐縮だが、ITベンダー化したユーザー企業の例として一番分かりやすいのが警備会社のセコムである。警備サービスをITで提供するのがホームセキュリティ。そのネットワークを利用して、高齢者見守りサービスなど警備以外のITサービスも提供しており、5年前にはデータセンター事業者も買収した。もう完全なITベンダーである。セコムは端末も自ら開発しているから“コンピュータメーカー”とも言える。

 ちなみに、いち早くITベンダー化したのはキヤノン、リコー、富士ゼロックスといった事務機器メーカーだった。複写機の時代はITと無縁だったが、プリンターの役割も果たす複合機を製品化してからは、システム開発なども手掛けるITベンダーに化けた。これからITベンダーを目指すユーザー企業も多い。例えば印刷会社のトッパン・フォームズでは、経営者が「印刷もできるIT会社になる」と宣言している。