ベンチャー企業を興した優れた起業家と、大企業の並の経営者がはからずもITに対して同じ認識を表明している。「これまでITは既存のビジネスを効率化するためのツールだったが、今や既存のビジネスを塗り替える力を持つに至った」。これを読んで「何だ?」と違和感を覚える読者も多いかと思うが、まぎれもない事実である。ただし、同じことを語ったといっても、両者の間には20年に及ぶ時間差がある。

 大企業の経営者の誰も彼もが「ITがビジネスを変える」とか「ビジネスのイノベーションにITが不可欠」などと本気で言い出したのは、ごく最近のことだ。今まで多くの経営者は口先では「ITは経営の武器」みたいなことを言うことはあっても、IT活用を我が事として考えることはなく、「専門家に任せる」としてIT部門に丸投げ状態だった。中には「ITはよく分からん」と公言する経営者も少なからずいた。

 そんな大企業の経営者をITに目覚めさせたのは、最近のデジタルビジネスの動向だ。米国では世界最大の重電メーカーのゼネラル・エレクトリック(GE)の経営者が「ソフトウエア会社の大手になる」と宣言する。一方、ウーバー・テクノロジーズやエアビーアンドビー、そしてFinTech(フィンテック)ベンチャーなどは、タクシーやホテル、金融といった既存の業界を容赦なく破壊しつつある。

 こうした状況を目の当たりにして、日本の大企業の経営者も遂に目覚めた。「うちもIoT(インターネット・オブ・シングス)を活用すれば、工場の見える化を推進できるかもしれない」とか、「AI(人工知能)を導入して、コールセンターの顧客対応を高度化できないか」とか、経営者自身が口にするようになったから驚きである。これまでの「ITは分からん」はいったい何だったんだ、というほどの豹変ぶりである。

 ツッコミどころは色々あるが、大企業の経営者のITに対する意識の変化は歓迎するべきことである。だが冒頭で書いた通り、大企業の経営者がようやくにしてたどり着いた、こうした認識は、20年前に当時のベンチャー経営者なら誰でもが持ち合わせていたものだ。実は、日本の大企業の多くは、IT活用において長い年月を無為に過ごしてしまったのだ。