ある大手SIerの幹部から「あんたは、人月商売や多重下請けの元凶として我々のことを悪く言うが、我々には下請けも含めIT業界の雇用を守っているとの自負がある」と言われたことがある。その時は「何を言ってんだろ、この人」と思ったが、冷静に考えると、それは一面の真理だ。日本のIT業界の病弊である人月商売や多重下請けが瓦解すれば、多くの雇用が失われるのも事実だからだ。

 この「極言暴論」や「記者の眼」で私は、IT業界の人月商売や多重下請け構造の問題を指摘してきた(関連記事: IT業界の人月商売、多重下請けがもたらす45の害毒)。さらに、この病弊が一刻も早く一掃されることがIT業界だけでなく、日本企業や日本全体にとっても重要だと主張してきた。それと同時に、いずれにしろSIerを頂点とするこのビジネスには先が無いとも予測した(関連記事:「SIerの余命は5年」への反論に反論する)。

 こうした暴論に対して、IT業界の問題のしわ寄せを一身に受ける下請けITベンダーの技術者だけでなく、SIerの技術者、そして経営幹部の人たちからも賛同や支持の声が寄せられている。ありがたいことである。できれば、SIerや下請けベンダーの経営幹部が今までのビジネスの在り方を深く反省し、人月商売や多重下請けというIT業界の大問題の一掃に動いてくれると、さらにありがたい。

 日本でもユーザー企業のIT投資やシステム開発のトレンドが、基幹系システムからデジタルビジネスのためのシステムへ、そして外注から内製へと移るのは確実で、人月商売と多重下請け構造に基づく既存のSIビジネスは、これから大きくシュリンクする。日本のIT業界には最大の危機が迫っているわけで、ぜひとも業績好調の今のうちにビジネスモデルの変革を成し遂げて、世界に顔向けができるハイテク産業に脱皮していただきたい。

 だが、そのことはIT業界の多くの人たちに、失業という不幸をもたらす。なんせ私は「人月商売や多重下請けを無くせ」と言っているのだ。実際にそれが無くなれば、下請けベンダーの技術者の仕事は失われる。それだけでなく、大規模プロジェクトを「オーバーヘッダーズ」として管理するだけのSIerの技術者の仕事も失われる。私の暴論を賛同・支持してくれる技術者の皆さんに問うが、それに対する覚悟と備えはあるのだろうか。