2017年上期で一番話題となった流行語は何かと聞かれれば、多くの人が「忖度(そんたく)」を挙げるはずだ。本来の意味は「人の真意を推し量ること」であり、至って中立的な言葉なのだが、例の森友学園への国有地払い下げ問題と深く結び付いて流行語となったために、悪いイメージがまとわり付くことになった。今の用法はこんな感じだ。「忖度なんかしていると、ロクなことにはならないぞ」。

 忖度という言葉が悪いイメージと共に広まったのは、今の日本にとって極めて意義深い。少し意味合いが違うが似たような言葉に「空気を読む」がある。こちらは「お前、空気を読めよ」といった用法の通り、肯定的なニュアンスがある。だが、友人関係ならともかく、場の空気を読み相手の真意を忖度しているようでは、今のビジネスにおいては致命傷となってしまう。

 最近、忖度し空気を読んで企業などが致命傷を受けた事例に事欠かない。何かと言えば、このところ相次いだ日本企業の不祥事のことだ。経営トップの意向を忖度し、事業部門の幹部や現場が不正に手を染める、といったパターンだ。例えば、商工組合中央金庫の不正融資を調査した第三者委員会の報告書では「不祥事の元凶は『空気』であり」「特殊・例外的な事案ではなく、日本型不祥事の典型である」と記している。

 今回の極言暴論の趣旨と外れるので、企業の不祥事の話はこの辺りでやめるが、要は忖度し空気を読んでいると最悪そこまで行ってしまうということだ。もちろん、そこまで行かなくても、忖度し空気を読んでいてはロクなことにならない。その典型の一つが、IT業界におけるシステム開発プロジェクトの失敗などである。曖昧な客の要望を忖度した結果、悲惨なデスマーチになるといったケースだ。

 客の意向を忖度したり、会議で場の空気を読んで発言したりするだけで、重要な課題を詰めない。これは何もIT業界に限った話ではなく、日本企業に共通する失敗の元凶であり、“日本型失敗の典型”と言える。ただ日本のIT業界には、他の業界以上に問題が大きい。なぜなら人月商売のITベンダーは御用聞き体質のため、忖度や空気を読むことに極めて熱心であるし、IT業界が多重下請け構造のため、忖度も“多重化”してしまうからだ。