「なぜ皆さんはプログラムに完ぺきを求めるのですか。そんなの無理に決まっているでしょ!」。某官庁の大会議室。居並ぶ大手ITベンダーの経営者や著名学者らが、システム障害ゼロを目指す取り組みの重要性を説く中、つまらなそうに聞いていたITベンチャーの若手経営者は、官僚から発言を求められ、そう言い放った。会議室の空気はブリザードに襲われたように凍りついた。

 随分前の話とだけ書いておくが、当時は大規模なシステム障害が多発し社会問題になっていた。この会合は、システム障害を防ぐ抜本対策という非現実な命題を検討するためのもの。出席した誰もが内心では「そんなこと無理!」と思っていたはずだが、官僚の要請なので、出来もしない解決策を順番に開陳していた。それなのに若手経営者の発言。「そいつを言っちゃあおしまいよ」。出席者たちの心の声が聞こえてきそうだった。

 この会合でどんな成果物が出来たのか記憶に無いし、過去の話を長々と書いても仕方がない。ただ、システムあるいはプログラムは完ぺきでなければならないとする重圧は、今でも企業のIT部門やIT業界にのしかかっている。システム開発においてバグを“完ぺきに”つぶせないことは、IT関係者なら常識中の常識のはずなのに、いつまで経っても「ミスは絶対に許されない」との“暴論”がまかり通っている。

 そんなことを言うと、IT業界やIT部門の人たちからは「お客さんが許してくれない」「経営や事業部門の理解が得られない」「世間に指弾される」などと一見もっともらしい言い訳が返ってくる。だが、本当にそうか。実はIT業界やIT業界の人、特にマネジャー層に「仕事は完ぺきでなければならない」と主張する人がゴマンといる。立派な心がけのようだが、さにあらず。日本のITをダメにした張本人たちである。

 私はこうした完ぺき主義者に“疫病神”とのレッテルを貼らしていただく。なぜそんな酷い言い方をするのかは追々述べるが、その前にこの疫病神の数が驚くほど多いことを指摘しておく。例えば「お客様の要求は完ぺきに実現しなければならない」と言って、膨大な要件をシステムに実装しようとする疫病神もいれば、「納期は厳守だ」と力んで、多くの技術者に不眠不休のデスマーチを強いる疫病神もゴロゴロいる。