日本のITベンダーの経営者、コンピュータサイエンスを教える教育関係者、そして行政のIT関連の政策担当者が共通に心配していることがある。ITを学ぶ超優秀な若者が日本のIT業界に就職せず、グーグルやアップルなど“光り輝く”大手ITベンダーの熱烈ラブコールを受けて米国に行ってしまうことだ。いわば若い頭脳、若い才能の国外流出である。

 確かに、この件は私も心配だ。少子高齢化の長きにわたる進行が避けられない日本の状況においては、企業が従業員の頭数や客の頭数に依存した商売から脱却して、より付加価値の高いビジネスに移行できるかどうかが、日本の将来を決める。そして、ビジネスのイノベーションのためにITが不可欠であることも論を待たない。なのに、その中核を担うはずの若者が日本を去ってしまう。

 本当に大変だ。そんな話をあるITベンダーの経営者にしたら、「あんたが極言暴論なんかで、日本のIT業界を悪く書いたりするから、ネガティブなイメージが若者の間で広まったんだ」と皮肉交じりに言われてしまった。だが、それは2つの意味で間違いだ。そもそも私の暴論はそこまで影響力はない。しかも私は事実を指摘しているだけで、そうした“不都合な真実”を放置してきたほうが問題なのだ。

 その話は後で述べるとして、私がこの頭脳流出問題で最も衝撃を受けた話を先に書くことにする。以前、米国に住む技術者(米国人ではなかったと思う)に「超優秀な若者がグーグルなどの米国ベンダーに就職してしまうので、日本の将来が心配だ」と話した時のこと。その技術者も「本当か。確かに日本はヤバイかもしれないぞ」と全面同意してくれた。

 だが、どうも話がかみ合わない気がする。私は「超優秀な若者が日本を去る」ことを問題視しているのだが、その技術者はなぜかスルーする。最初は私のあまりに劣悪な英語力から来るコミュニケーションギャップのせいかと思ったのだが、どうもそうではないらしい。そして次の一言でようやく分かった。「日本の最も優秀な若者はなぜ、そんな退屈な大手ベンダーに就職するのか」