IT産業に限れば日本は圧倒的に後進国だ。SIの多重下請け構造については「他国や他産業にも少なからず存在する」と強弁できるが、人月商売のほうは話にならない。知的集約の極致であるはずのソフトウエア開発が、「人月いくら」という労働集約にすり替わっている。“人売り”商売がハイテク産業を偽装する。とてもじゃないが恥ずかしくて、先進国の皆さんに日本のIT産業の現状を説明することなどできない。

 もちろん日本のITベンダーの経営者も「人月商売や多重下請け構造は問題だ」と言う。だが「問題だ。問題だ」と唱えるだけで、とりあえず食えるからと、御用聞きベースで人月商売を続ける。言うまでもなくソフトウエア関連のビジネスは、革新的な機能とビジネスモデルが勝負の世界。人月商売はビジネスモデルとも言えない代物で、人を大量動員する後進国型ビジネスの最たるものと言ってよい。

 これでは儲かるわけがない。先進国型ビジネス、例えばパッケージ製品なら営業利益率で4割、5割の水準が狙えるが、人月商売では数%が関の山だ。薄利多売を目指したところで、技術者の頭数で売り上げの規模が決まるのが人月商売の泣き所。同じ薄利のビジネスでも、市場の総取りを狙う先進国のクラウドビジネスの足下にも及ばない。

 人月商売に明け暮れるITベンダーの経営者はそれでも、「儲かる産業にしたい」と口々に話す。開発の現場が「新3K(きつい、帰れない、休暇が少ない)」と言われるキツイ職場なのに、技術者に十分な給与で報えない。このままでは若者にそっぽを向かれ、人月商売を支える技術者の成り手が少なくなってしまう。そんな問題意識から「儲かる産業にしたい」と言うわけだ。

 だが、ブランドの立たない単なる人月商売では、料金が安い方向にサヤ寄せされていくという下方平準化の原理が働く。つまり、ITベンダーがどんなに頑張って業務を効率化しても、その全ての成果は料金引き下げという形でユーザー企業に献上し、ITベンダーの儲けにつながらない。まさに人月商売という後進国型ビジネスの悲喜劇である。