大規模システムの開発の際、SIerによって組成される開発部隊は、どのような組織なのか。最近そんなことを考える機会があった。「組織」と書いたが、プロジェクトチームなので、もちろん企業の部門のようなソリッドな組織ではない。だが実態は、企業組織をはるかにしのぐ階級制であり、“抗命”が許されない軍隊的組織、まさに部隊である。その部隊に無能で意気地の無い司令官が乗っかると……。

 「階級制って何のことだ」と思った読者は、おそらくIT業界以外の人だろう。IT業界の人なら即座に「階級制=多重下請け構造」と理解するはずだ。大規模な開発プロジェクトならSIerのプロジェクトマネジャーを筆頭に、下請け、孫請け、場合によっては6次、7次請けのITベンダーから技術者が集められ、“作戦遂行”のための大部隊が作られる。その際、多重下請けの階層がそのまま各技術者の階級になる。

 当然、SIerの技術者が一番エライ。次はSIerが直で発注した下請けITベンダーの技術者だ。多重下請けの末端のITベンダーの技術者、つまり実際にプログラムを書く技術者は、いわば一等兵、二等兵といった兵士に相当する。こう書くと、「おいおい、システム開発はビジネスなんだから、さすがに軍隊と比べるのは行き過ぎだろう」とIT業界以外の読者は思うかもしれない。

 だが、それが現実である。企業組織における上司と部下の関係よりも、多重下請け構造で組成された開発部隊のほうが上下の関係が厳しい。なぜならば、下請けITベンダーの技術者にとって、SIerをはじめ上の階層のITベンダーの技術者は「お客様」だからだ。日本企業では部下が上司に楯突いても大目に見てもらえるケースもあるが、お客様の要求(≒命令)がどんなに理不尽でも抗命することは許されない。

 「それは違う。商取引は価値等価交換なのだから、発注側と受注側は対等のはず」。そう異議を唱える読者がいると思う。それはおっしゃる通り。正論だ。だが多重下請け構造の中に生息し、御用聞き営業に明け暮れるITベンダーでは、特に経営幹部らに奴隷根性が染み付いており、現場の技術者も理不尽に耐えるしかない。そこに、無能で意気地の無い司令官、つまりSIerのプロマネが指揮を執ると、どうなるか。