いまだに、現場のカイゼン活動こそが「日本企業が世界に誇る強みの源泉」と無邪気に信じている人が大勢いる。実際、日本企業の経営者には、この現場力を信じる現場重視タイプが圧倒的多数で、現場を“軽んじる”構造改革タイプはごく少数だ(関連記事: ITが大好きな社長は失脚する、その深い理屈を教えよう)。だが、もういい加減にそれが大きな間違いであることに気付くべきである。

 このカイゼン、今となってはカイゼンの亡霊といったほうがよいが、それに取りつかれたままでは、日本企業はこれからのデジタル化の時代に生き残れないだろう。間違いなく、カイゼンの亡霊に取り殺されてしまう。カイゼン活動は、現場の創意工夫で取り組む活動のため部分最適の権化。「成果を横展開するのが本当のカイゼンだ」と反論されそうだが、多くの企業で実態はむしろ逆だ。

 現場の創意工夫とは、それぞれの現場がオリジナリティーを発揮するということ。モノマネとは対極、とてもクリエーティブな試みだ。企業はカイゼン活動へのモチベーションを高めるために現場を競争させたりするから、現場はますますクリエーティブになる。ある部署の取り組みが成果を上げたりすると、他の部署は対抗心をむき出しにして、それ以上の成果を上げられる別のやり方を必死で探す。

 そんなわけで、カイゼンに取り組む現場には「他人のマネをする」という発想が無い。ある大手製造業では、生産現場を知らないCFO(最高財務責任者)が、工場でのカイゼン活動の話を聞いて驚愕し、こう聞いたそうだ。「なぜ、一番成果を上げたやり方をマネないのか」。現場の担当者は独自のやり方で成果を上げたことを褒められると思っていたらしく、「えっ!」と絶句したそうだ。

 確かに、品質向上や原価低減に向けての現場の個々のこだわりが製造業を強くし、ものづくり大国ニッポンを創り出したのは間違いない。だが、カイゼンの成果の横展開を成功した一部企業を除けば、カイゼンの深化による究極のタコツボ化をもたらした。工場ごとに全てが違う。しかも、このカイゼンの発想はホワイトカラー職場や非製造業にも伝播し、部分最適は日本企業の文化になってしまった。