「コンサルタントが社長にあらぬことを吹き込むから……」。大企業の基幹系システムの刷新プロジェクトなどで、その企業のシステム部長や出入りのSIerの役員らから聞こえるボヤキの定番である。IT部門やSIerはシステム刷新を粛々と進めようとしたのに、コンサルタントが突然、社長のところにやって来て「在るべき姿」や「全体最適」を説く。すっかり乗せられた社長が業務改革を言い出して大混乱……。彼らのボヤキはそう続く。

 私は何度そうしたボヤキを聞いたか分からない。20年前にも聞いたし、つい最近も聞いた。だが実は、こうしたボヤキの内容の大半は、IT部門やSIerならではの妄想だ。そもそも肝心な事態が分かっていない。以前、そんなボヤキを語る大企業のシステム部長に次のように聞いてみたことがある。「なぜそのコンサルタントは飛び込みで、御社の社長に会えたのですか」。システム部長の第一声は「えっ!」だった。

 その後、システム部長は「そりゃ、有名なコンサルティング会社だったからじゃないか」と言う。「でも、有名な会社のコンサルタントというだけで、忙しい社長が会うわけはないでしょう」と私。「確かにそうだ」とシステム部長は思案に暮れる。「うちが世話になっているSIerの紹介かな。いやいや、彼らもうちの社長にめったに会えないから、そんなはずないな」。

 実は、同じ質問を大手SIerの経営者に投げかけたこともある。すると、やはり分からないとの回答。というか、「そんなの考えたこともなかったよ」というのん気な返事が返ってきた。重要顧客の経営者に、競合となるかもしれない企業のコンサルタントが会っているのに、「なぜ会えたのか」を考えたこともないというのはヤバイのでは。その時、私はそう思ったが、私とてエラそうなことは言えない。

 私も「なぜコンサルタントが社長に会えるのか」、その訳を知らなかった。そこで、あるベテランのコンサルタントに聞いてみた。すると「そりゃ君、手紙を書くんだよ」との答え。「それだけで会えるんですか」と私が驚くと、「かなりの確率で会えるよ。ただし直筆であることが条件かな」と言う。もちろん人の紹介というルートもあるが、この“お手紙作戦”で金融機関をはじめ大企業の経営者と面会することに成功しているとのことだった。