私がいくら「SIや受託ソフトウエア開発のビジネスに先は無い」と言っても、あるいはITベンダーの多くの技術者が「このまま御用聞き商売、人月商売を続けているとマズイ」と思っていても、ITベンダーの経営者には「うちは大丈夫」と高をくくっている人が多い。しかも、明確な根拠に基づくものだから始末に悪い。

 その根拠とは、IT業界の人月商売、多重下請け構造を顧客として強力に支える銀行、生損保などの金融機関の存在である。いつも引き合いに出して恐縮だが、みずほ銀行のシステム統合プロジェクトには天文学的な工数を費やす。このような大規模プロジェクトはIT業界の技術者を大量にバキュームするから、結果として人月商売の需給関係が引き締まり多重下請け構造の末端まで潤う。

 もちろん、天文学的な大規模プロジェクトはそうあるわけではなく、プロジェクトが終了すれば需給が一気に緩む。だが、金融機関を顧客にするITベンダーにはそんな“平時”にこそ美味しい仕事がある。個々の業務システム、アプリケーションの保守業務である。これがあるからこそ、ITベンダーの経営者は周りの“雑音”を気にせず、安心して人月商売にいそしむことができるのだ。

 なんせ保守業務と言っても、他の産業のシステムとは桁違いに規模が大きい。大規模なシステムだと保守費用が数十億円に上ったりする。製造業やサービス業の感覚では、ちょっとした規模の開発案件だ。しかも、IT投資である開発と異なり保守は費用。毎年、莫大なお金がIT業界に流れる。個々の人月単価も大きいから、その仕事に関わるITベンダーは安定的に儲けることができる。

 製造業やサービス業の顧客を相手にしているITベンダーからすると羨ましい限りだが、実は多くのITベンダーが何らかの形で、こうした金融機関の仕事を請け負っている。そんなわけで、ITベンダーの経営者から「木村さんが何と言おうが、これから先も我々の仕事は安泰。IT業界の人月商売も無くならないよ」と何度言われたか分からない。