私には今でも恥じていることがある。ある金融機関のCIO(最高情報責任者)の話にたわいなく賛同してしまったことだ。CIOいわく「ITベンダーは『御社の課題を解決します』と言ってソリューションカタログを見せる。でも、我々の課題を知る前に、どうしてその解決策をカタログにできるのか」。私は「その通り!」と思わず膝を打ってしまった。

 すっかり感心してしまった私はその後、このカタログに載ったソリューションの“おかしさ”についてITベンダー各社に説いて回っただけに、極めて始末に悪い。この話を聞いたITベンダーの経営幹部の中には「なるほど。ソリューションの提供者を目指すと言っておきながら、確かにそれではお恥ずかしい限り」と反省モードになる人もいた。

 いやぁITベンダーの皆さん、申し訳ない。よく考えると、このCIOの話はおかしい。だから当然、私も間違っていた。もう10年以上も前の2004年の話なので今さら取り返しがつかないが、弁解させてもらえば、当時はソリューションブーム。多くのITベンダーが「提案すべきはソリューション」と言いながら、まともな解決策を出せていなかったので、このCIOの発言には説得力があるように思えたのだ。

 ただ読者の中には、「虎の威を借る木村は恥ずかしいが、CIOの発言はおかしくない」と思う人がいるはずだ。実は、最近ようやく誤りに気付いた私は、あるITベンダーの経営幹部にその話をした。そうすると「顧客の課題を理解した上で、ITによる解決策を提案するのが我々の本分だから、指摘は間違いではない」との反応。うーん、長年のマインドコントロールは恐ろしい。

 このCIO発言の何が間違いなのか。実は、2000年頃から始まったユーザー企業のIT部門の勘違い、あるいは思い上がりをこの発言が象徴しているのだ。「最終的にはシステムの形になるソリューションのうち、最も付加価値の高いものはタダでよこせ。代わりに、付加価値の低い人月仕事をお前たちに発注してやる」。そう言っているのに等しい。でも、IT部門もITベンダーもそのことに気付いていないのだ。