技術者にとって、今は千載一遇の転職、そしてキャリアアップの好機だ。空前の技術者不足と言ってよい状態で、技術系の転職サイトの求人倍率を見ても8倍前後の“高原状態”が続いている。まさに引く手あまたなのだが、どうもおかしい。これだけの売り手市場になる原因は、単に技術者の絶対数の不足という事情だけではあるまい。見方を変えれば、多くの技術者が転職したがらないのではないか。

 IT業界の技術者やユーザー企業のIT部門に所属する技術者は、仕事内容に対する処遇の不満、自分の今後のキャリアに対する不安、そして技術力を高める機会の無さから来る焦燥感が満ちあふれている。だったら本来、これだけの転職の好機を見逃さないはずはない。確かに最近、転職した技術者の話をよく聞くようにはなった。だが、“技術者大移動”が起こるまでには至っていない。

 なぜ技術者の多くは、これだけの好機を棒に振るのか。臆病風にでも吹かれたのか。求人企業などが求める技術レベルやスキルと自分のそれがミスマッチしているからか。それともIT部門の技術者、ITベンダーの技術者とも御用聞き体質が染み付いてしまって、自分の将来のことなのに自ら動こうとしないのか。はたまた、転職したところで今と状況は変わらないという勝手な諦めからだろうか。

 前回の極言暴論では、ユーザー企業のIT部門やITベンダーを問わず、技術者の転職が当たり前になれば、ユーザー企業のIT活用がまともになり、悪名高いIT業界の多重下請け構造が解体し、技術者自身も皆ハッピーになるという話を書いた。この極言暴論では珍しく楽観的に、技術者がとっとと会社を辞めることでもたらされるバラ色の未来を描いてみた。

 今回は、いわばその続編だ。技術者視点で見れば、前回の裏返しの話と言ったほうがよいかもしれない。もちろん甘い話ではない。今転職しないのなら、単にキャリアアップの絶好の好機を見送ったというだけでは済まない。IT部門やITベンダーにいて、「このままではヤバイのでは」と薄々感じている技術者に言っておくと、その悪い予感は間もなく現実化する。必ずだ。「その時になって泣いても遅いぞ」とまずは皆さんを脅しておく。