ユーザー企業のIT部門がシステム開発で満足に要件定義もできなくなった。だから、SIerがIT部門の要件定義を代行する。多くのユーザー企業でIT部門の劣化・素人化が進んだこともあり、SIerの技術者が要件定義を代行するのは、今ではごく普通の話。だが、これは二重の意味で大きな間違いであることを、IT部門やSIerはきちんと自覚しているのであろうか。

 読者の皆さんは当然お分かりかと思うが、新人などピンと来ない人もいるかと思うので少し説明する。要件定義とは「何をどのように作ってもらいたいかを明確にする」作業だから、本来なら客しかできないはずである。さらにこの場合の「客」は、IT部門ではなく、システムを利用する部門。「何をどのように作ってもらいたいかを明確に示す」のはIT部門の役目ですらなく、利用部門の役目である。

 だから、「SIerがIT部門の要件定義を代行する」というのは二重の意味で間違いなのだ。実は、「要件定義は客の仕事だ」と言うIT部門の人であっても、少し勘違いしている場合がある。理屈では利用部門の役目と分かっているはずだが、IT部門の仕事として要件定義を自ら担ったりするからだ。「利用部門に要件定義は無理」との判断だろうが、世間ではこれを甘やかしと呼ぶ。

 従って「SIerがIT部門の要件定義を代行する」というのは、まことに不適切な行為だ。利用部門がおそらく無自覚にIT部門に丸投げした要件定義を、IT部門がさらにSIerに丸投げしているわけだ。この客がシステム子会社を持っている場合、この丸投げの連鎖はさらに長くなる。いずれにしろ、SIerの「提案SE」などと呼ばれる技術者が、客の利用部門などにヒアリングして要件をまとめることになる。

 「客が要件を定義できないのだから、SIerが要件定義を代行するのもやむを得ない」との声もあるはずだ。実は私も最近まで、要件定義の代行はやむを得ないと考えていた。だが、これは大きな間違いだった。客(利用部門)を甘やかすから、客がつけ上がり、人でなしの行為を平気でする。プロジェクトの炎上リスクも高まり、SIerは炎上したら責任を押し付けられた挙句、無能扱いされる。客が泣こうが喚こうが、要件定義は客にやらせなければならない。