私はいつも、この「極言暴論」などでITベンダーやユーザー企業のIT部門の愚かな思考回路や行動様式を批判している。だが、一つだけ以前と比べると劇的に改善したことがあり、私は心から喜んでいる。何かと言うと、システム障害に関わることだ。勘違いしていただきたくないが、システム障害が減ったと言っているのではない。システム障害の際の“過剰謝罪”が激減したのを喜んでいるのだ。

 大規模な個人情報漏洩などが発生したなら話は別だ。だが以前なら、世間に大した迷惑をかけていないにもかかわらず、システムが長時間ダウンしたからと言って、経営トップが謝罪会見を開き、カメラの放列に向かって深々と頭を下げるという“呆れた”シチュエーションが結構あった。さすがに頭取は頭を下げなかったが、ATM(現金自動預け払い機)の一部が止まっただけで、金融機関は大騒ぎになったものだった。

 こう書くと、「確かに、ごく一部のATMが止まっただけでは、経営トップが謝罪する必要は無いと思うが、要は程度の問題。『大した迷惑』なのかそうでないのかを、そもそもどうやって線引きするのか」と疑問に思う読者もいるはずだ。全くその通りである。「大したことがない」と思う木村が甘く、「経営トップが謝罪すべき事態」とする当事者の企業や世間の判断のほうが正しいのかもしれない。

 私が“大したことがないトラブル”として、よく引き合いに出すのは、経営トップの謝罪会見の“常連”である航空会社のシステム障害だ。10年近く前のシステム障害では、航空機が飛べなくなったために約7万人の乗客が多大な影響を被り、経営トップが深々と頭を下げた。

 航空会社のシステム障害は最近でも発生したが、なぜ古い話を持ち出すのかと言うと、ちょうどその頃、私は鉄道のトラブルに乗客として巻き込まれたからだ。こちらは、システム障害ではない。鉄道の信号機の故障か何かで、長時間、列車が止まった。朝の通勤時間帯だったので、多くの人が迷惑を被った。私も列車の中に缶詰にされ、午前中のアポをキャンセルせざるを得なかった。

 この時、迷惑を被った乗客は70万人。航空会社のシステム障害のおよそ10倍だ。だが、鉄道としてはさほど珍しくないトラブルで、大した問題ではない。実際、鉄道会社の経営トップが謝罪会見を開くことはなく、翌日の新聞記事も目立たない扱い。経営トップが頭を下げる写真がデカデカと載せられた航空会社のシステム障害とは雲泥の差だった。