アベノミクスや円安の影響もあり、日本企業は業績が上向き。春闘も久しぶりに盛り上がっているようで、電機はベア3000円で決着した。だからと言って、景気や春闘がらみの話を書こうというのではない。電機の労使交渉で経営側代表は、富士通の藤田正美副社長。それを聞いて「あっ、そうか」と改めて思ったことがある。今回はそれを書く。

 富士通の副社長が電機の労使交渉で経営側代表を務めるように、富士通、そして日立製作所やNECは、パナソニックなどと同じ電機産業なのだ。富士通、日立、NECが加盟する業界団体も電子情報技術産業協会(JEITA)であり、家電や重電、電子部品メーカーなどとつるんでいる。専業のコンピュータメーカーとして出発したわけではないので仕方が無いが、実は3社ともIT産業を代表していない。

 では、日本のIT産業を代表する企業はどこか。今や売上高が1兆円を優に超えるNTTデータと言いたいところだが、IT産業より範囲が狭いITサービス産業、つまり私が“SIガラパゴス”と呼んでいる産業のトップ企業と言ったほうがよい。それにNTTデータは上場しているとはいえNTTの子会社であり、その社長人事を最終決定し発表するのは親会社であるNTTだ。

 この4社を外すと、日本のITベンダーは一気に小粒となる。SIガラパゴスの業界団体である情報サービス産業協会(JISA)に加盟する大手どころは、少数の例外を除けば富士通、日立、NECの子会社か、他産業の大手企業のシステム子会社である。あとは外資系ITベンダーがいるが、あくまでも日本法人。本社の意向に左右される“弱小な”存在にすぎない。

 結局のところ、日本のIT産業には電機産業の大手3社、NTTデータを別格とする中堅中小のSIガラパゴスの企業群、そしてわずかな権限しか有さない外資系ITベンダーの現地子会社しか存在しない。つまり、コアとなる企業がいない。「そんな状態なのは昔からじゃないか。何を今さら言っているのか」との声が聞こえてきそうである。だが、違う。日本のIT産業には以前、コアとなるリーディングカンパニーが存在したのだ。