世の中には不思議なことがたくさんあるが、特にIT、情報システムの世界は不可解なことの宝庫だ。一種のミステリーゾーンと言ってもよい。それでも私の場合、IT関連の取材経験が長くなったし、IT関係者の話を真に受けないようにしているので、大概の謎は解ける。だが、そんな私でも長い間、どうしても理由が分からないミステリーがあった。

 それは記事のタイトルのとおり、「なぜ、あの業界のシステム刷新は軒並み大炎上するのか」である。少しもったいぶらせてもらって「あの業界とは?」の種明かしは後にするが、その業界の名前を聞いた途端に、多くの読者が「確かに」と大きくうなずくこと請け合いである。というか、いろんな業界のユーザー企業を相手にしたITベンダーの技術者なら、既に「当然あそこだな」とピンと来ていることだろう。

 実際、歴代のシステム刷新プロジェクトはどれもこれも、よく燃え上がっている。炎上度合いに差はあれど、どんなプロジェクトも当初予定した納期やコストでは絶対に納まらず、はるかにオーバーランする。大炎上したプロジェクトなら、大人数の火消しチームが入ってもなかなか鎮火できず、担当の技術者は気の遠くなるような長いデスマーチを歩かされた。

 本当に不思議だった。個々のプロジェクトの失敗理由は、それこそ“オーソドックス”なものだ。「要件定義の漏れがあった」「現行システムに対する調査・分析が甘かった」「IT部門と開発ベンダーの意思疎通がうまく行かなかった」などである。確かに個々の「動かないコンピュータ」事例としてなら、それなりに納得できる理由である。だが、問題は「なぜ、あの業界では軒並みそういった状態に陥るのか」なのだ。

 そろそろ「どの業界か早く言えよ!」と苛立つ読者がいると思うが、まだ業界を明かさない。その前に、理解してもらいたい前提があるからだ。ただ言っておくが、銀行業界のことではない。一部でプロジェクトが大炎上しているからと言って、誤解無きように願いたい。まあ、銀行業界に近い業界ではある。あっ、そう言ってしまうと、もうバレバレか。