「前回、システム開発を任せたITベンダーがひどかったからね。今回のプロジェクトでは信頼できるITベンダーを探しているんだ。幸い、御社は実績もあり、信頼してお任せできそうだ」。あなたがITベンダーの営業担当者か、提案活動を行っている技術者で、新規顧客開拓で赴いた大企業のIT部門の担当者からそんな話を聞いたら、どうするだろうか。

 悪いことは言わない。一刻も早く営業活動を打ち切って、二度と関わらないことをお勧めする。大企業のネームバリューの魅力に負けて、ズルズルと訪問を続け、RFP(提案依頼書)なんかを受け取ってしまうと面倒なことになる。大企業のシステム開発案件だから、複数のITベンダーが参加するコンペになるだろうが、そうなってからでは商談を降りるにしても、提案書を作ってプレゼンする手間が生じる。

 えっっ! 「ちょうどそんな案件があり、既に満身の提案を行った」だって。一大事である。なぜ、そんな愚かなことをしたのか。なになに、「前回プロジェクトのトラブルは聞いていたが、今回の案件のRFPの出来が良いため、前回のトラブルはやはりITベンダー側の問題であり、この客に起因する問題ではないと判断した」。うーむ、もし開発ベンダーに選定されたら、これから1年、あるいは数年にわたる地獄が待っているぞ。

 この書き出しを読んで、「木村はいったい何を書こうとしているんだ」と不審に思った読者は多いだろう。実は今回の極言暴論では、商談、あるいは開発プロジェクトのキックオフなどの場で、客のIT部門やITベンダーが共に必ず口にする「信頼」という言葉の欺瞞(ぎまん)性に焦点を当てる。そして、「信頼って、えらく小さなテーマだな。木村もネタ切れか」と読者に思われないよう、そんな書き出しにしたのだ。

 当然、こうしたIT部門は、無能で、とんでもない客である。理由は順次述べていくが、その前に、なぜ無能な客なのにRFPの出来が良いのかの種明かしをしておく。簡単な話だ。どこかのITベンダーに対して「御社に発注するから」などと偽って、精度の高い提案書を提出させ、それを基に、あるいはコピペしてRFPを作成したからだ。これは大企業や公共機関のIT部門でも横行している悪行である。