日本のIT業界には、どんな素人であろうと誰でもすぐになれる職業がある。読者には分かるだろうか。

 「そりゃ、コンサルタントと違うか」との声が上がりそうだが、さすがにそれはない。確かに誰でもコンサルタントと名乗れるかもしれないが、客がそう認知してくれないと職業として成り立たない。答えは簡単だ。「システムエンジニア」、そう「SE」である。

 本当に誰でもSEになれる。本人が希望すればもちろん、希望しなくてもいつの間にかSEになってしまう。IT業界以外の人には不思議な話だろうが、これは事実である。もし、あなたが20歳代の人で、奇特にもIT業界に転職するならば、経験不問で簡単にSEになれるはずだ。特に、ソーシャルメディアなどで“人売り”と罵られているITベンダーに就職すれば、即日であなたはSEだ。

 なぜならば、ITベンダーがあなたにSEの肩書きを与えるからだ。昔は新卒者でも即座にSEというITベンダーが結構あったが、さすがに今ではあまり聞かなくなった。だが転職組なら、下請けITベンダーあたりは即座にSEにしてしまう。ひどいケースでは(実は結構当たり前だが)、「金融分野で○○システムなどの開発経験を積んだ」といった具合に、架空の経歴までSEの肩書きに“添付”される。

 IT業界における“客と業者の特殊性”を知らない読者は当然、次のような疑問を持つことだろう。「記事の冒頭で『客がそう認知してくれないと職業として成り立たない』と書いているじゃないか。さすがに客が素人をSEとして認知しないだろう」。おそらく理解不能だと思うが、客も素人をSEと認知するのである。正確に言うと、客はSEが素人かどうかなんて、どうでもよいのだ。

 いや、もっと正確に言う必要がある。ユーザー企業のIT部門や、SIerと呼ばれる元請けのITベンダーが、システム開発などで下請けITベンダーからSEを動員する際、重要なのは実績のある何人かの優秀なSEと、その他大勢のSEの頭数である。その他大勢のSEは頭数がそろっていれば、それでよいのだ。例えば大規模開発プロジェクトが大炎上して、「素人でもよいから人を出せ」と大号令が出た話は記憶に新しい。