この「極言暴論」では、主にユーザー企業のIT部門とIT業界の“不都合な真実”に焦点を当てて批判してきた。IT部門の丸投げ体質やモンスターカスタマーぶり、そしてIT業界の人月商売、多重下請け構造の問題などだ。その際に引き合いに出す主な事例は、システム開発での喜悲劇である。システム開発という“イベント”では、IT部門やITベンダーの仕事におけるアホさ加減が極端な形で見てくるからだ。

 だが、IT部門やITベンダーの仕事は、もちろんそれだけではない。IT部門にとっては、むしろ日常のシステム保守運用が業務の大半を占め、ITベンダーにとってもIT部門から請け負う保守運用はビジネスの中で大きな比重を占める。ただ、その仕事があまりに日常すぎるのか、私の切り込み不足・認識不足からか、極言暴論では保守運用をテーマにした記事は極めて少ない。

 実際、システム保守運用に絡む記事と言えばせいぜい、「今どき若者をコボラーにするのは忍びない」と言いつつ、若者をCOBOL技術者に仕立て上げて保守運用の現場に送り込むITベンダーの経営者の愚劣さを描き出したぐらいだ。しかし最近、大手金融機関のIT部門の人から怖い話を聞いた。

 それは、こんな話だ。「IT部門を悩ます大問題は、システムの保守運用の人的基盤が瓦解しつつあること。実務を委託するITベンダーの担当チームから優秀な技術者が散逸しつつあるのだ。実は、原因はITベンダーのほうでなく、我々にある。過去に何度も料金を値切ったことで、優秀な人材をキープしてくれなくなった。彼らは『技術者の質を落とします』とは言わないが、新しく来る人たちを見ると能力の差は歴然だ」

 それでも、この金融機関のシステムは大きなトラブルもなく、今も稼働し続けている。「だったら問題は無いじゃないか」と言うわけにはいかない。問題はトラブルが発生した時なのだ。「もし何かあったら適切に対処できるのか、はっきり言って確信が持てない」とのこと。怖いぞ、これは。実は、他の金融機関でも状況は似たり寄ったり。というか、大手から中小まで日本のほぼ全ての企業に共通する“ホラー”である。