あのオリンピック誘致合戦での滝川クリステルさんのプレゼンのインパクトもあり、日本や日本企業の「お・も・て・な・し」の素晴らしさが喧伝されている。確かに「お客様を第一に考え、かゆいところに手が届く、心のこもったサービスを提供しよう」という精神は、ビジネスのデジタル化が進み、モノよりコト(サービス)の重要性が高まっている昨今、日本企業の競争優位のポイントであるのは間違いない。

 まさに世界に冠たるジャパンクォリティーなのだが、ここまで賞賛されると、壮絶に勘違いする愚か者も多数出てくる。ろくなカネも出さないのに、「俺は客だ」と理不尽な“奉仕”を要求する輩がいるのはもちろんのこと、サービス提供側の企業までが過剰な「おもてなし」精神を発揮して、その理不尽に対応しようとする。価値の等価交換という商取引の原理原則を、客も企業も忘れてしまっているのだ。

 その結果、人によるサービスを提供している小売り・サービス業などでは、現場が辛いことになる。低賃金で働いているならば、従業員も商取引の原理原則に従い、客を過剰におもてなす必要は無い。欧米企業のようにカネに見合う接客で十分だ。にもかかわらず、雇用主である企業が客の過剰要求にも応えるのは当然と考え、その対応を現場の従業員に“丸投げ”するなら、それはもうブラック企業と言うしかない。

 さて、ここから本題のIT業界の話。SIerや下請けITベンダーは、大くくりではIT業界の一員だが、より細かく言うとITサービス業界を構成する企業だ。SIビジネスというITサービス業はまさに人月商売の名の通り、人によるSI、システム開発というサービスを提供する仕事だ。御用聞き商売の別名通り、客の理不尽にも対応しようとした結果、現場の技術者が阿鼻叫喚状態になることは、既に何度もこの「極言暴論」で書いてきた。

 ところが、SIビジネスが他のサービス業と異なる点は、客が過剰な「おもてなし」を求めれば求めるほど、客も大損をするということだ。つまり、SIビジネスという商取引において、支払ったカネに見合う価値を受け取ることができないのだ。SIerを買い叩けるだけ買い叩いても、状況は変わらない。これはいかなることか。「極言暴論」の読者なら、既に薄々はお気づきかと思うが、詳しく解説しよう。