システム開発プロジェクトでは「スコープクリープ」と呼ばれる怪現象が頻繁に起こる。要件などプロジェクトの範囲であるスコープが、プロジェクトマネジャーのあずかり知らぬところで勝手に肥大化する現象を指すが、この怪現象が発生するとプロジェクトは破滅に向かう。そうでなくてもプロジェクトの途中で要件が膨らむとやばいのに、それをプロマネが知らなかったら……。考えるだけでも恐ろしい。

 ただ、プロジェクトの外野から眺めるだけでは、スコープクリープという怪現象を理解するのは難しい。要件などの肥大化がなぜ勝手に起こるのか、なぜプロマネが気付かないのかが、しっくりと腹落ちしないのだ。もちろん、プロジェクトの途中で要件が膨らむ(あるいは揺らぐ)こと自体は、外野からも容易に理解できる。モンスターな客と無能なSIerとの“共同作業”による産物だからだ。

 ウオーターフォール型のシステム開発では、プロジェクトの途中で多少要件が膨らんだり揺らいだりすることは避けられない。だが、ものには限度がある。客があまりにモンスターで、というかIT部門が利用部門のワガママを統制できず、プロジェクトの途中で利用部門が「これじゃ使えない」「こんな機能が絶対に必要だ」と騒ぎ出し、弱腰のSIerがその無理無体の要求を受け入れてしまったならば……。

 外野から容易に理解できる要件などのスコープの肥大化はそんなストーリーだ。こうなるとプロジェクトの大炎上が決定的となり、プロジェクトチームの技術者はデスマーチを歩かなければならない。以前ならほとんどの場合、SIerが泣き寝入りする場合が多かったが、最近では訴訟になるケースが多く、客とSIerの壮絶なやり取りが白日の下にさらされることになる。

 一方、システム開発プロジェクトの責任者であるはずのプロマネがあずかり知らぬところで、要件などのスコープが勝手に肥大化する怪現象を外野の人間が理解するのは難しい。実は私も、スコープクリープという言葉を初めて聞いた時から、プロジェクトチームの内部的問題、つまり体制や統制の問題なのかと疑問に思っていた。で、プロマネの人に確認したら半分正解だったが、「基本設計の段階でも起こり得る」と知り腰を抜かした。