SIerをはじめとする人月商売のITベンダーも、ようやく事の重大性さに気付いたようだ。何の事かと言うと「デジタルをやらないと明日は無い」である。ユーザー企業のIT投資がデジタル分野にシフトするから、やがて人月商売への需要が減少し……といった気の長い話だけではない。デジタルに取り組んでいないと、基幹系システム刷新など重要顧客の大型案件を失うといった、SIerにとって恐るべき事態が現実のものになりつつあるのだ。

 今、人月商売のITベンダーの幹部に「デジタルに取り組んでいますか」と聞けば、特にSIerなら「もちろん!」との答えが返ってくるはずだ。だが、多用している私が言うのも何だが、「デジタル」という言葉の使い方は実にいい加減だ。従来の情報システムに関わるものはITで、それ以外の新しいものは全てデジタル。そんないい加減な認識が、ITベンダーにはある。

 以前、SoR(システムズ・オブ・レコード)とSoE(システムズ・オブ・エンゲージメント)という、いかにも技術者が好みそうな区分けがはやったが、一般人にはあまりにダサい響きだ。それにSoEの「エンゲージメント」は日本人には意味不明。「デジタル」も曖昧だが、感覚的に分かった気になる。かくしてITベンダーは人工知能(AI)であろうとIoT(インターネット・オブ・シングズ)であろうと、新しいものなら何でもかんでもデジタルと言うようになった。

 ユーザー企業の視点で言うと、デジタルとITとの区分けには別の意味が付与される。つまり、ITとはIT部門がお守りをするシステムのことであり、デジタルとは「デジタルビジネス」という言葉がある通り、企業にとっての新しいビジネスやサービスそのものである。だから、デジタルは事業部門が取り組むものであり、社内ITのお守り役であるIT部門はお呼びでないという話になる。

 ユーザー企業の事業部門にとって、デジタルを活用したビジネスやサービスの創出は新しい試みのためハードルが高い。ITベンダーにとっても、AIやIoTは既存の人月商売よりどう考えてももうかりそうにない。両者とも「うーん、どうしよう」状態なので、手を組んで一緒に様々なPoC(概念実証)に取り組んでみる。で、日本ではPoCが大ブームだが、これはという成功事例はなかなか出てこない……。