日本は今、空前のIT技術者不足。ユーザー企業のIT部門も、SIerも、下請けベンダーも、そしてブラック企業も「必要な頭数を確保せよ」と、まるでモノか何かをかき集めるかのような口調で技術者の“調達”に奔走している。この私にさえ技術者不足への対策を聞いてくる人がいるが、そんな時は必ず「諦めてください。それが日本や大勢の若者のためです」とだけ答えることにしている。

 なぜ、そんな木で鼻をくくったような態度をとるかと言うと、これまで抜本的な対策を打とうともせず、周期的に「技術者が足りない。大変だ!大変だ!」と騒ぐ浅薄な連中が大嫌いだからである。それに、モノか何かのようにかき集められる若者の将来よりも、国や大企業などのシステムのほうが大事だと思っている点もゲンナリする。そんなものは圧倒的に小事である。

 そもそも、「技術者不足への対策は技術者を増やすこと」と脊髄反射的に考えるのは、何とかならないものだろうか。ご存知の通り、システム開発の需要は景気などの影響を受けて大きく変動する。今のように需給が逼迫している時にかき集めた技術者の多くは、不況になり需要が大きく落ち込むとお払い箱になる。技術者を増やすという対策は、人でなしの所業である。

 「モノか何かのように」と書いたが、本当のモノだと、人のようにはかき集めることができない。憶えているだろうか。日中関係が緊迫したのを受けて、中国がハイブリッド車のモーターなどの製造に不可欠なレアアース(希土類)の対日輸出を、一方的に停止したことがあった。なんせ中国はレアアース生産量の9割を握っていたから、日本の主力産業が大打撃を受けると、それこそ「大変だ!大変だ!」と大騒ぎになった。

 その結果、どうなったかと言うと、何事も無かった。代替素材の開発などが一気に進み、中国産レアアースへの依存を大きく減らしたのだ。まさにモノ不足がイノベーションを引き起こしたわけだ。で、普通はこうだろう、と思う。なぜハイテク産業であるはずのIT業界では「技術者不足→大変だ!大変だ!→若者をにわか技術者に仕立てろ」になってしまうのか。あまりに安直である。