問題だらけの日本のIT業界だが、その最たるものは言うまでもなく、SIビジネスにおける多重下請け構造だ。私も何度も言及してきた大問題だが、今回の極言暴論ではこれまでとは別の観点で斬ってみたい。もったいぶって書いているが、大した話ではない。多重下請け構造を個々の取引に分解してみるだけだ。要は、客と業者の関係の“数珠つなぎ問題”である。

 IT業界の多重下請け構造をフル活用するSIビジネスにおいては、客と業者の関係が多数存在する。発注元のIT部門と元請けのSIer、SIerと下請けベンダー、下請けベンダーと孫請けベンダーなどといった具合だ。大規模なシステム開発プロジェクトだと、6次請け、7次請けなんていうのも当たり前だから、それこそ客と業者の関係が数珠つなぎになる。

 それぞれの関係において、業者は客に弱い。人月商売ゆえの御用聞き体質もあって、業者は客の理不尽な要求でもホイホイ聞き入れてしまう。これが技術者に過酷な長時間労働を強い、IT業界の総体として“ブラック職場”がはびこる根本原因だ。プロジェクトが客のせいで大炎上したのに、「お客差様のために決して逃げないで、納期厳守で完遂せよ」と技術者たちを“死地”に追いやるといった類いの話だ。

 なんせ、「働き方改革」「長時間労働の是正」「下請けいじめの撲滅」などの旗を振る官公庁を筆頭に、大本の客であるIT部門の無責任さがひどい。要件定義も満足に行わず丸投げしたり、自分たちの責任なのに「納期遅れは許さない」と怒鳴りまくったりとやりたい放題。世間ではモンスターカスタマーと呼ぶ。ただ「ポケモンGO」がヒットした折、「モンスター」では語感が可愛すぎるので、日本語の「化け物」といったほうが適切だろう。

 問題は、この化け物が“伝染”することだ。IT部門が化け物客なら、SIerの担当者も下請けベンダーに対して化け物客となる。下請けベンダーも孫請けベンダーに対して化け物客となり…といった具合に、客と業者の数珠つなぎを伝って、皆が化け物客になっていく。もし誰かが、化け物客にならず真っ当な客でいようとすると、その人は詰め腹を切らされるか、あまりの過労で倒れるかといった不幸な状態になったりする。